ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

ヤマダ電機が迅速なリストラ案を発表した理由

株主

家電量販店最大手のヤマダ電機が苦境に立たされている。同社は収益性の低い地方店舗を整理するとともに、都市部への集中を進めるリストラ策を打ち出している。

確かに、同社はかつてない危機に直面しているものの、財務体質はまだ強固であり、崖っぷちに追い込まれたわけではない。だがこれだけ素早くリストラ策を打ち出してきた背景には、同社を買い占めている投資ファンド対策という側面があるようだ。

ヤマダ電機の2015年3月期決算は、売上高が前期比12%減の1兆6644億円、純利益が50%減の93億円となった。これだけの規模の小売店で売上高が1割減少するというのはかなりのインパクトである。

売上高の大幅な減少は消費増税の反動減が最大の原因だが、背後には人口減少というマクロ的な動きがある。一部ではアマゾンなどネット通販との競争に敗れたという指摘もあるが、量販店とネット通販の規模の違いはまだ大きく、量販店の売上をネットがすべて奪っていったとは考えにくい。やはり商圏が小さい地方の店舗の採算が急激に悪化したと考えるのが自然だろう。

実際、同社はテックランドなど、収益性の低い地方店舗を中心に統廃合を進める方針を明らかにしている。5月末までに約40の店舗を一斉閉鎖する一方、東京・八重洲に都市型店舗をオープンするなど人口が集約する都市部に店舗網をシフトする。

採算の悪化に対するヤマダ電機の一連の動きは素早い。これは山田社長の意思決定が迅速であることが大きく影響しているが、もう少し複雑な事情もある。ヤマダ電機は現在、村上ファンド出身者が設立した投資ファンドから猛烈な買い占め攻勢を受けており、このままでは大胆なリストラ策を株主総会で要求される可能性が出てきているのだ。

昨年10月、投資ファンド「エフィッシモ・キャピタル・マネージメント」がヤマダ株を大量保有していることが明らかになった。同ファンドはその後も買い増しを進めているとみられ、現在はすでに筆頭株主になっている可能性が高い。エフィッシモは、村上ファンド出身者が設立したファンドであり、アクティビスト、いわゆるモノ言う株主である。ヤマダ電機に対しては、店舗網の再構築など抜本的なリストラ策を要求する可能性が高いとみられている。

ヤマダ電機はエフィッシモに対抗するため、ソフトバンクと資本提携することを発表している。表面上は、スマートハウス事業などを共同で進めていくためとしているが、ヤマダが保有する自社株をソフトバンクに譲渡するという内容であり、ソフトバンクに大量の議決権を付与することが目的なのは明らかだ。おそらく株主総会における多数派工作ということなのだろう。

実際、株主総会で委任状争奪戦(プロキシーファイト)ということになると、大塚家具の例からも分かるように、どちらにも属していない株主の意向が極めて重要な意味を持つことになる。会社側が率先して、大胆なリストラ策を講じているというイメージを作ることができれば、投資ファンド側が無理な要求をしているというストーリーを展開しやすい。店舗の統廃合を急いでいるのはこうした理由からと考えられる。

もっともエフィッシモの本当の狙いは、高値で上手に売り抜けることである。会社側の迅速なリストラ策が好感され、株価が上昇するようであれば、彼等はそのタイミングでうまく株式を売却しているかもしれない。一方、売り抜くタイミングを逸するということになれば、株主総会で増配などを要求することになり、激しい委任状合戦になってしまうかもしれない。ヤマダ電機をめぐる騒動はしばらく続くことになるだろう。

 


加谷珪一(かやけいいち)
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)など。2014年11月28日発売開始

「稼ぐ力を手にするたったひとつの方法」
清流出版 1620円

稼ぐ力を手にするたったひとつの方法

加谷珪一のブログ http://k-kaya.com

加谷珪一

Return Top