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長期的な円安時代がやってくる?

エンリッチ ドル高

為替市場が長期の円安トレンドを形成し始めている。短期的には投機的な動きへの反動から円高への回帰も十分に考えられるが、今後、かなりの長期にわたって円安が続く可能性を考慮しておく必要がありそうだ。

為替市場は2015年に入ってから、しばらく1ドル=120円前後を行き来するボックス圏相場が続いてきた。ところが5月20日を境に円は下落を開始し、26日にはさらに円安が加速、一時は1ドル=125円80銭まで進んだ。

基本的に米国経済は好調であり、中長期的にドル高が続くと見る投資家が大勢を占めていた。ところが厳冬の影響などから、1~3月期のGDPが低い水準にとどまり、一部の投資家が米国の成長を疑問視する状況となっていた。

ドル高見通しと一時的なドル安見通しが交錯する状態となっていたところに、好調な経済指標が相次ぎ、イエレン議長による「年内利上げ」の発言があったことで、一斉に投資家が動いた可能性が高い。

一時的には円高に戻ると考えていた投資家は、慌ててポジションを解消することなるので、短期的には円安が加速してしまう。円が126円目前まで売り込まれたことにはこうした背景があると考えられる。

このような投機的な動きの後には、その反動が見られるのが一般的である。短期的にはこれまでとは逆方向の力が働き、円高に戻る可能性は十分にある。だが、長期的に市場を見た場合、今回の円安が一時的なものなのかというと必ずしもそうではなさそうである。

ドル円相場は、1973年に変動相場制に移行して以来、一貫して円高ドル安トレンドが続いてきた。円高が進むとその反動で一時的には円安になることもあったが、85年以降は、前回の円安を超えて円安になったことは一回もなく、毎回ドルの上値が切り下がっていた。

だが、今回の円安では、前回の円の最安値である1ドル=124円14銭が突破されたことから、一部の投資家は、30年近く続いた長期の円高ドル安トレンドが転換したと考えている。

これまでドル円の為替レートは、購買力平価の為替レートと高い相関性を示してきた。1985年のプラザ合意以降、為替介入などで一時的に円安になっても、購買力平価による理論的な為替レートを超えて円安になることはなく、円高トレンドが継続してきた。その理由は、日本のデフレと米国のインフレである。両国の物価差を為替が調整してきたのである。

しかし、最近はこの傾向に変化が見られるようになってきた。購買力平価による理論的なレートを大幅に超えて円安が進んでいるのだ。これは従来のドル円相場には見られなかった現象であり、市場が日本のマクロ的な環境変化を先取りしている可能性がある。

一般的には、購買力平価の為替レートを大幅に超えた部分については、円高に戻ることで是正されることになる。為替が大きく動く時には、多分に投機的な動きがあるので、今後、これまでの反動で円高になる可能性は十分にある。だが、為替が円安に振れることで、輸入物価主導で国内の物価を押し上げ、結果的に現在の円安が適正水準に変化する可能性は十分にある。

さらに長期的には日本の財政状況も金利上昇とインフレを想起させる。今後の財政再建策次第ではあるが、財政難が金利上昇を誘発し、それが円安の引き金になる可能性も十分に考えられる。日本の機関投資家は、今後、海外の投資を拡大することはあっても縮小することはない。常にドル買いの実需が発生するというのも見逃せない点だろう。

短期的な為替の上で一喜一憂する必要はないが、長期的な円安に対する準備を始めてもよい時期が来ている。
 


加谷珪一(かやけいいち)
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)など。

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加谷珪一のブログ http://k-kaya.com

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