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米IT企業の好決算は何を意味しているか?

クラウドコンピューティング

アマゾンやマイクロソフトなど、米国のIT企業が次々と好決算を発表している。キーワードはクラウド・コンピューティング。これまで話題のキーワードでしかなかったクラウドが、現実のビジネスとして大手企業の業績を押し上げるレベルに拡大してきている。クラウドが大手の企業業績にも顕著な影響を与えるようになったことで、IT関連のビジネス環境が激変する可能性が出てきたといえそうだ。

マイクロソフトが10月22日に発表した2015年7~9月期の決算は、売上高が前年同期比12%減の203億7900万ドル(約2兆4500億円)、純利益は2%増の46億2000万ドルだった。数字だけを見ると減収でわずかな増益だが、株価はまったく正反対の反応を示した。翌日の株式市場では同社株は10%以上値上がりしている。

その理由はマイクロソフトがこのところ急速にクラウド・サービスに軸足を移しており、その成果が数字に反映されてきたことについて投資家が好感したからである。同社は従来型ビジネスであるソフトのパッケージ販売から課金型のクラウド・サービスへの転換を進めている。クラウドはパッケージより見かけ上の価格は安くなるので減収要因となるが、完全にクラウド・サービスに移行できれば、利益率は極めて高くなる。クラウド経由で業務用ソフトを提供する「オフィス365」の個人利用者数はすでに1820万人に達しており、6月末に比べて300万人増加した。同社はこのサービスだけで2500億円の収益を上げている計算になる。

同社では、世界にあるパソコンのうち10億台を3年以内にウィドウズ10に置き換える目標を掲げている。これらの利用者が皆、クラウドでサービスを利用すれば、現在の同社の売上げをはるかに上回る業績を上げることが可能だ。市場はその実現可能性を株価に織り込み始めたのである。

アマゾンの好決算と株価上昇も同じ理由である。同社が同じ日に発表した四半期決算は、前期の赤字から一転、純利益が7900万ドルの黒字となった。利益率の高いクラウド・サービス「AWS」事業が利益を押し上げた。アマゾンはネット通販の会社というイメージが強いが、実は業務用のクラウド・サービス大手という別の顔も持っている。

アマゾンのクラウド・サービスは、プロからの評価が高く、大手企業が次々とシステムの自社運用をやめ、アマゾンのクラウド・サービスへの移行を進めている。日本企業も例外ではなく、ユニクロを展開するファーストリテイリングなど多くの著名企業が、基幹システムを丸ごとアマゾンのクラウドに移行すると表明した。
こうした動きは、ある境界値を超えると、雪崩を打つように進展していく可能性がある。数年の間に、ほとんどのシステムがクラウドを前提に動くようになっても不思議ではない。

現代のビジネスの多くはIT抜きには成立しない。システムの基本的な構造が変化する時には、企業の競争環境にも変化が起こる。顧客へのチャネルが変わると業界のシェアも激変する可能性があるのだ。クラウドでの利用が進めば、これまでパッケージの販売が強かった会計ソフトのシェアが大きく低下するかもしれない。また、従来は対面が中心でネットでは提供しにくかったサービスも容易にネットに乗るようになるだろう。思っていた以上の変化が、あらゆる市場に波及すると思った方がよい。マイクロソフトとアマゾンの好決算は、こうした市場の変化の前触れと考えた方がよさそうだ。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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