ドイツは、EU(欧州連合)の恩恵をもっとも多く受けた国の一つであり、欧州の中では圧倒的な輸出競争力を誇っている。ドイツは、ポーランドやハンガリーなど周辺国から安い労働力の供給を受け、付加価値の高い工業製品を欧州域内に輸出することで大きな利益を得ている。ドイツの失業率はEU圏内でもっとも低くわずか4.5%である。EU28カ国の平均は9.3%、フランスは10.7%、スペインはいまだに21.6%であることを考えると、ドイツの失業率は突出して低い。ドイツにおいて労働者はむしろ足りない状況にあると考えてよいだろう。
しかし、言葉も通じず、職務経験にバラツキのある難民が多く流入しても、即戦力になるとは限らない。それでも難民受け入れに積極的なのは、ドイツの財政事情が大きく関係している
ドイツは財政規律が憲法で義務付けられており、放漫な財政運営を行うことが禁止されている。好調な経済に支えられ税収が大幅に増加したこともあり、2015年には国債の新規発行が事実上ゼロとなった。つまりドイツは無借金国家であり、大きな財政出動余力を備えているのだ。
難民に対する支援は、すぐには経済的効果を上げないので、短期的には財政負担の増加になる。だが難民に対する教育支出が、将来的に質の高い労働者を増やすための投資だとしたらどうだろうか? 同じ財政支出でも、その意味は大きく変わってくる。メルケル首相らは、難民に対する教育を一種の公共事業と考えており、将来の利益を生み出す源泉として捉えている。短期的には難民に給付した支援金がそのままGDPの拡大につながり、長期的には難民に対する職業教育が今後の経済成長を担うという仕組みである。
ただ難民の数が増えるにつれて、ドイツ国内にも脅威論が台頭してきた。難民受け入れを積極的に進めてきたメルケル首相には、当初、多くの賞賛が寄せられていたが、最近では難民政策を批判する人たちの方が多い。日本でも移民受け入れの議論が行われているが、ドイツが今後、どのような対応をするのか要注目といえそうだ。
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