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パナマ文書問題。本当のところ日本人の利用実態はどうなのか?

エンリッチ パナマ文書

タックスヘイブン(租税回避地)に関する流出情報、いわゆる「パナマ文書」が話題となっている。日本ではタックスヘイブンに関する話題が少なく、メディアの報道もほとんどがイメージ先行となっている。以下では日本人によるタックスヘイブン利用の真偽についてまとめてみた。

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は5月、「パナマ文書」に関連する約21万社の会社名などを公開した。日本では楽天トップの三木谷浩史氏やソフトバンクの孫正義氏などの名前が出てきたほか、伊藤忠商事など商社の名前も散見される。名前が出た個人や企業のところには取材が殺到し、意味不明の質問が行われているようである。

ひとくちにタックスヘイブンの利用といっても、どの国のどういった立場の人が、何を目的に利用したのかによってその意味は大きく変わってくる。

今回の流出でもっともインパクトが大きいのは、中国やロシアなど独裁政権の指導者による資産隠匿の問題である。独裁政権の指導者は基本的に自国の体制を信用していないので、クーデターを警戒し、タックスヘイブンに資産を隠匿するケースがある。国際政治の世界ではこれが最大の関心事ということになるが、日本にとってはほとんど蚊帳の外であり、国民の関心も低い。

日本ではもっぱら税金逃れの部分に焦点が当たっているようだが、現実には、この部分についても日本人の関与は少ないと思われる。というのも、日本人の中で、グローバルに活躍し、海外で莫大な所得の源泉を持てるような人材はほとんど見当たらないからである。タックスヘイブン問題の本質というのは、自分が住む国以外で所得の源泉があるかどうかが大きなカギを握っており、その点において、ほとんどの日本人が該当しない。

例えば世界各地に拠点を持って活動している欧米のビジネスマンであれば、各国で得た所得をもっとも税金の有利な場所に移して課税を逃れることが可能となる。そのようなビジネスマンは積極的にタックスヘイブンを使っているかもしれない。だが、ビジネス活動が日本国内に限定されているドメスティックなビジネスマンの場合、所得の源泉は日本にある。税金の申告を誤魔化したところで、お金を払った相手方への調査で状況はすべて筒抜けである。したがって国内でしか稼げない人がタックスヘイブンを利用する意味はほとんどない。

結局のところ、日本人がタックスヘイブンを利用する目的の多くは、相続税の回避か、ごく普通のビジネス活動ということになる。

資産家の子供が、資産を国内で相続した場合、日本の税制では最大55%の相続税が発生する。日本の税制は属地主義なので、仮に家族全員が海外に移住し、その場所に居住し続けるのであれば、タックスヘイブンを利用して相続税を回避することは不可能ではない。

だが、こうした行為は日本の税法では完全に合法である。心情的に納得できないという人はいるかもしれないが、こうした仕組みが認められているのは、相続財産というものが、すでに税金を払った後の残りだからである。日本では高い累進税率が課されており、高額所得者には多額の所得税が課せられる。子供に相続するお金は、こうした税金を払った後のものであり、日本に住んでいない人に対して、ここからさらに課税するというのはやはり行き過ぎである。

もっとも海外への資産移転がすべて合法とは限らない。中には、日本に住んでいながら資産だけを海外に逃がし、実質的に相続を行っているケースもある。これを意図的に実施した場合には立派な脱税ということになるだろう。だが、資産家の多くがこうしたスキームを使って脱税行為を行っているわけではない。

日本の金融市場はかなり閉鎖的なことで知られている。日本の金融機関は、護送船団方式という名称からも分かるように金融当局の統制下にある。このことは、日本経済が停滞する大きな要因の一つとなっているのだが、裏を返せば、日本における海外送金のほとんどは、当局によって把握されていることを意味している。相続税の対象になるほどの資産を、当局に把握されない形で海外に移転することなど事実不可能と考えた方がよい。

結局のところ、海外取引の中継地点としてタックスヘイブンを利用するか、ごく一部の人が、申告せずに海外に資産を移転するために利用しているという程度であり、大きな問題には発展しにくいというのが現実だ。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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