公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は7月、2015年度の運用実績が5兆3098億円の赤字になったと発表した。昨年後半から続いた株安の影響を受けた格好だ。政府は年金は長期的視点で運用していることに加え、これまでの累積黒字があるので問題ないとしており、メディアもそれに倣った報道を行っている。一見、もっともらしく聞こえる話なのだが、本当にそうなのだろうか。
以前の公的年金は安定運用を優先するという立場から、安全資産である国債で運用してきた。しかし安倍政権はGPIFの運用方針を全面的に見直し、株式を中心としたリスク運用へと転換した。これまで安全第一で運用してきたにもかかわらず、なぜ急に株式での運用に切り替えただろうか。その理由は年金財政の赤字が危機的な状況になっており、株式の運用で儲けないと、年金の支払いができなくなっているからである。つまり赤字を埋め合わせるために、リスクの高い株式運用にシフトしたというのが事の真相である。
筆者は株式の運用に肯定的な立場だし、自身の資産も株式で運用してきた。だが株式投資には相応のリスクがあることを引き受けた上での投資である。多くの人にとって最後の砦となっている公的年金の運用を本当にリスクの高い運用に託してよいのか国民的な合意ができているとは思えない。
何より年金の赤字を埋めるための運用であることの問題点は、赤字は毎年発生しているという点である。年金が赤字ということは、毎年徴収する年金保険料を年金支給額が上回っているということである。この足りない分を運用で埋め合わせているわけだから、GPIFは理論上、毎年利益を上げ続ける必要がある。長期的な視点での運用なので今年は儲かりませんでしたという話は実は通用しないのだ。
実際、2015年はこの問題に直面した。GPIFは5兆円の赤字を出しているのだから、本来であれば年金に支払うお金はないはずである。だが2015年度も2750億円が特別会計に支払われ、受給者への支払いに消えた。このお金はどこから捻出したのかという積立金を取り崩したのである。つまりいくら長期的視点での運用といっても、利益が出なかった年は、積立金を取り崩していく必要があるのだ。これはタコが自分の足を食べるようなものであり、本来あってはならないことである。