同社は、天井まで商品を高く積み上げ、あえて見通しを悪くするという「圧縮陳列」と呼ばれる手法を得意としてきた。圧縮陳列の店内に入った顧客は、まるで迷路に入ったようになり、どこに何かあるか分からないという状態になる。その結果、無目的に来店した顧客の滞留時間が長くなり衝動買いを誘発する効果があるとされる。整然と商品が並んでいる必要がないのであれば、居抜きの物件でも、前のお店の特徴を生かして店舗を設計できる。これによって自由な出店が可能になるという仕組みだ。
こうした陳列手法は小売業界における店舗理論では御法度とされてきた。無目的にやってくる顧客だけを相手にしていては、大きなボリュームを稼ぐことはできないというのがその理由である。
同社が深夜営業をウリにする、ちょっと変わったお店だった時代はこれで何の問題もなかった。しかし同社の規模は大きくなり、主婦層も相手にするメジャーな存在となりつつある。そこで同社が近年、積極的に導入しているのが、圧縮陳列による雑貨と一般的な陳列による食料品を組み合わせるハイブリッド店舗である。
一般的に、衝動買いが多い雑貨の利益率は高いが、大きなパイは稼げない。一方、食品はボリュームゾーンの商品だが利益率は低い。
生鮮食料品を大量に揃える一般的なスーパーは、面積当たりの売上高は大きいが、利益率は低い。一方、100円ショップのような雑貨は、単位面積当たりの売上高は小さいものの利益率は高い。ドンキホーテは、従来型の圧縮陳列で衝動買いを誘発し、そこで得た利益を、食品の安値販売の原資にしている。圧倒的な低価格を提示することで、近隣のスーパーから主婦層の顧客を奪い、売上高のボリュームを稼ぐ。これによって、同社はスーパー並みの売上げボリュームを稼ぎながら、100円ショップと同レベルの利益率を確保している。
同社の経営陣は、大型スーパーなどから顧客を奪う以外に業容を拡大する方法はないと明言しており、そのためには居抜きによる出店はむしろ好都合というわけだ。以前に大型店舗があったということは、一定以上の商圏は確実に見込めることを意味している。居抜きによるコスト削減効果をうまく組み合わせれば、売上高成長と利益成長の二兎を追うことが可能となる。
同社には、居抜き物件の問い合わせが多数寄せられており、今後の出店計画もほとんどが居抜きで占められるという。しばらくの間、同社独特の店舗展開はうまく機能する可能性が高いだろう。
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