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加谷珪一|エコノミストの予想はなぜ当たらない?

経済データ

安倍首相が消費税の増税延期を決断するもっとも大きな材料となったのは、7~9月期のGDP(国内総生産)速報値である。物価の影響を除いた実質でマイナス1.6%(年率換算)という数字は各方面に大きなショックを与えた。

エコノミストによる事前の予想は2%台半ばであった。数字が当たらないだけなく、プラスかマイナスかという基本的な方向まで正反対だったことから、エコノミストはなぜこれほど当たらないのか?という声がネット上に溢れる状況となった。一部には、政府に遠慮してエコノミストが数字を甘めに出していたのではないかと指摘する声も出ている。

確かに、状況に応じてこうした対応をするエコノミストは一部には存在するのかもしれない。だが、プラス予想がまったく逆のマイナスだったという今回の事態は、エコノミスト自身にとっても驚きだったはずである。ではなぜ予想が当たらないのか?それは在庫の読みの甘さが大きく影響した可能性が高い。

発表されたGDP内訳のうち下落幅が大きかったのは住宅で、前期比マイナス6.7%であった。個人消費も弱くプラス0.4%にとどまった。民間設備投資もマイナス0.2%となっており、政府による公共事業以外は総崩れといった状況だった。だがこれはあくまで前期からの下落率であり、それがGDP全体にどの程度の影響を与えているのかというのはまた別の話である。

GDPの下落に対する寄与度でもっとも大きかったのは、企業の在庫調整である。消費の低迷から企業が生産と在庫を抑制した可能性が高く、これが数値を0.6%ポイントも押し下げたのだ。

GDPは各種の統計データから推計する2次統計なのだが、企業の在庫については生産側の供給状況から推定が行われる。確定値が出る段階では法人企業統計が使えるのだが、速報値の段階ではそのデータは使えない。在庫の推定は一般に難しく、これをどの程度と見積もるのかでGDPの数字は大きく変わってしまうのだ。エコノミストはこのあたりの状況をうまく読み切れなかったと考えられる。これをもってして彼等が無用だと断罪する必要はないが、GDPの予測というものは、そもそも大きな誤差を含んでいるということをわたしたちはもっと理解しておくべきだろう。

エコノミストを多少擁護すると、現在のように経済の基礎体力が落ちているときの予想は難しくなるのが一般的である。消費税の駆け込み需要やその反動が発生するのも、経済そのものが非常に脆弱になっているからである。このような時にはちょっとした要素の変化で全体のプラス・マイナスが変わってしまう。エコノミストの予想が大ハズレという結果に終わったということは、日本経済の基礎体力がかなり弱い状況であることの裏返しと解釈することもできるだろう。


加谷珪一(かやけいいち)
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)など。

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