人民元の3度にわたる切り下げに端を発する中国ショックは、世界経済における最大の不安要因となっている。米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は9月のFOMC(連邦公開市場委員会)において、とうとう利上げの見送りを決定した。中国の景気失速が世界経済に与える影響を考慮した結果である。
中国は経済統計の信頼性が低く、それが市場の不安を増大させている。だが、中国経済はまだ発展途上であり、世間でイメージされているほど世界経済に対する影響力は大きくないのも事実だ。中国問題に対しては、少し冷静なスタンスが必要だろう。
信頼性が低い中国の経済統計
中国政府は、成長率の鈍化を受けて、経済成長の目標を実質で10%台から7%前後に引き下げている。中国国家統計局による公式の発表では2012年以降、毎年7%台の成長率となっており、今年の4~6月期についても、かろうじて7%台を維持した格好だ。
だが、現実の中国の成長率はもっと低いというのが市場のコンセンサスとなっている。中国の経済統計の信頼性が低く、数値の一部が水増しされている可能性があるからだ。本当の成長率がどの程度なのかを知るためには、各種統計の中で比較的信用度が高いものを選ぶという工夫が必要となる。
中国の統計でまず押えておくべきなのは輸出入である。先ほど中国の統計の信頼性は低いと述べたが、輸出入については相手国にも統計が存在するため、数字が大きく違っている可能性は低い。
中国税関総署が発表した今年1月の米国向け輸出は約350億ドルだが、米国側の統計では約380億ドルだった。同じ月の日本向けの輸出は1.5兆円だが、日本側の統計では約1.8兆円となっている。ぴったり同じ額にはならないものの、おおよその水準は一致している。輸出入の統計は、それほど実体との差はなさそうだ。
最近の輸出動向を見てみると、2014年は平均すると5%台の伸びを示していたが、徐々に減速が目立つようになり、2015年の3月には前年同期比マイナス15%、4月にはマイナス6.4%を記録した。輸出の低迷が投資を縮小させている可能性は高い。これに加えて中国では、国内の公共投資が大幅に削減されており、企業の生産は縮小を余儀なくされている。こうした状況は電力消費の統計にもあらわれている。
中国の電力消費量は、他の統計に比べて信頼性が高いといわれる。李克強首相がかつて省のトップを務めていた時代、外国メディアに対して信用できる経済指標のひとつとして電力統計を取り上げており、外国の市場関係者はこの指標を特に重視している。