IBMはグローバルに展開するIT企業なので、米国経済というよりも全世界的な景気動向に反応する銘柄である。中国の景気が失速していることや、パリで同時多発テロが発生したことで、世界経済の先行きを不安視する声もあるが、少なくともバフェット氏は、中国の景気失速が世界経済に大きな影響は与えるとは考えていないようである。
ちなみに9月末時点でバフェット氏は、AT&T株をあらたに取得している。通信会社であるAT&Tは、どちらかというと、従来までの市場環境で威力を発揮する銘柄だが、これはディレクTVの買収によって結果的に保有されたものであり、市場で買い付けたものではない。やはりバフェット氏は景気の潮目が変化していると認識しているようだ。
ソロス氏はネット系企業に前向き
それでは、短期的な投資を得意とするソロス氏はどのような見立てをしているのだろうか。ソロス氏のファンドがSECに提出した資料によると、バフェット氏とはかなり異なったポートフォリオを組んでいることが分かる。バフェット氏との最大の違いは、ネット系企業に対するスタンスだろう。
ソロス氏はこのところネット系企業を多く買い増している。具体的には、動画配信最大手のネットフリックス、ネット通販最大手のアマゾン、電子決済のペイパルといった銘柄の取得が目立つ。ソロス氏は中国の電子商取引大手のアリババを大量売却して話題になった。だが、米国のネット企業を買い増しているところを見ると、アリババを売ったのは中国市場に対する懸念が原因であり、ネット企業そのものに対する評価ではないようだ。
実際、ネット系企業の株価はこのところ堅調な動きを見せている。特にアマゾンとフェイスブックは、先行投資がかさむことについて投資家が前向きに評価するようになっており、市場の雰囲気は大きく変わったとみてよい。アマゾンについは、ウォルマートなどリアル店舗を持つ企業から顧客を奪うという側面があり、その点ではまだまだ成長余地がある。
ネット系企業の株価は基本的に将来の期待収益の増加に支えられており、成長期待がなくなれば当然株価は下がることになる。だが逆に言えば、先行投資で収益が圧迫される状況でも、成長期待が続く限り、ポジティブな評価は続く。過大な先行投資を市場が前向きに評価したということは、ネット系企業の収益はまだ伸びる余地があると投資家が判断したことに他ならない。
ネット系企業の株価は、基本的に景気がよくないと上昇しないものなので、米国の景気拡大という点では、バフェット氏もソロス氏も、基本的に一致している。両者の予想が当たるとは限らないが、少なくとも相場の流れがここ半年で大きく変化したことだけは間違いなさそうだ。