アートに関する法務の第一人者として知られる小松隼也弁護士。自身もコレクターとして多数の作品を所持し、昨年までアートの本場ニューヨークに留学していた経験を持つ。現地では世界中から富裕層が集まるアート関連のパーティが毎週のように開かれ、マーケットの動向を左右する有名コレクターも多数訪れるという。小松氏がNYで経験したエピソードを元に、コレクターとしてのアートとの付き合い方やニューヨークのコレクター事情などを聞いた。
*この記事は2016年10月に掲載されたものです
NYのロースクールで
アートと法を学ぶ
ENRICH(以下E):小松さんがアートに興味を持つようになったきっかけを教えてください。
小松:私はもともと弁護士を志す前は写真家かデザイナーになりたいと思っていたんです。特に写真家については思い入れが強く、司法試験合格後に夜間や土日を利用して、1年半、写真の専門学校に通いました。
ある日、そこで知り合った芸大の友人の作品を見せてもらって、本人からコンセプトをいろいろ聞いていたら、美術館で見るのとはまた違った面白さがあることに気がついて。それから彼のペイントと僕の写真でコラボ作品を作ろうと、一緒に活動しはじめたのがきっかけです。
でもある日、彼が海外に留学することになって、留学費用を貯めるためにしばらく作品の制作が難しくなるという話を聞いたんです。それならばと、お金が必要なら自分がいくらか出すので、自分のために作品を作ってほしいとお願いしまして。これがはじめての「アートを買う」という経験でしたね。また、彼らと普段から接している中でアートの著作権問題やギャラリーとの契約、海外の税制などについて、日常的に相談に乗っていました。そこから、アート関連の法律にも関わるようになったんです。
E:そこから、「アートのコレクター」かつ「アート関連の法をスペシャリティとした弁護士」という小松さんのふたつの軸ができあがったんですね。では、NY留学までの経緯を教えてください。
小松:うちの事務所はもともと海外のクライアントが多く、4年ほど働いたら2年休職して留学できる制度があるんです。僕は弁護士として訴訟を専門としているので、そこを極めたく訴訟とアートの本場であるNYへ行ってみたいなと考えていました。
そこで下見にNYに行ったら、現地で知り合ったアーティストからアートを専門にしている弁護士の方を紹介してもらったんです。その方から、いいロースクールがあるよということでフォーダム大学を紹介してもらいました。フォーダムのロースクールには、訴訟を専門的に学べるコースに加え、アート、特に現代アートに特化した法律問題を全般的に学べるクラスもあって、そんな面白い授業があるのかと感銘を受けました。さらに、アートだけではなくファッションやデザイン専門のカリキュラムもあるんです。僕はファッションもデザインもアートと同じくらい専門にしていたので、アートもファッションもデザインもNYの先端の事例が学べて、実務家とも話せる。それならここしかないなと決めました。