アートマーケットの世界は
インサイダー規制のない株式市場
E:では、NYでの体験談を教えてください。
小松:NYではアートに関するパーティが頻繁に開催されています。たとえば、メトロポリタン美術館を貸し切って35歳以下のコレクターが招待されるパーティには、若手の経営者や投資家がたくさんいます。DJブースまで設置されて、参加者はアートの話から仲良くなって、ビジネスの話もして盛り上がる。
また、ガラパーティは毎週のようにどこかで開催されています。1席の参加費50万円するようなガラパーティでは、数十人の参加者のためにトップミュージシャンがライブをやったり、ハリウッド女優が参加していたり。参加者のためだけにアートのオークションも開催されて、そこでの落札額と席代はすべてアートの振興のために使われるんです。参加者が支払った金額の大半は税額控除の対象となるのも大きなポイントです。
E:コレクターは単に所有欲を満たすだけでないんですね。
小松:そうですね。NYのコレクターは作家を応援するという意識が非常に高く、若手でこれから世界に羽ばたくであろう作家を美術館に紹介したり、パーティで海外のコレクターに紹介したり。そういったことが普通に行われています。さらにいうなら、NYのコレクターは作品を買うだけでは終わりません。作家の知名度が高くなるよう、自分から働きかけるんです。力のある業界関係者に紹介したり、美術館に一緒にプロデュースに行ったり。
一般的には、美術館やギャラリーが作品のコンセプトを世に広める役割を担っていますが、それをコレクターがやったりもしています。美術館も作品を所蔵したい注目の作家がいるときは、コレクターに頼んで作品を寄贈してもらうとか、キュレーターもコレクターも作品の知名度や価値を上げることに積極的に絡んでいます。
E:株式だと市場操作といわれてしまうようなことも、アートの世界では認められていると。
小松:あるコレクターは「インサイダー規制のない株式市場」といっていました。コレクターがプレイヤーとして作家、作品の価値を高めたうえで、エグジットとして美術館に作品を寄贈することで多額な税務上の恩恵に加え、社会的名誉も得られるんです。美術館に作品を寄贈すれば、みんなから「あの人は自分のお金を使って美術館にこんないい作品を残してくれた」と見られるし、税額の恩恵があるので投資としての見返りも確保されている。海外のコレクターは富裕層としての社会的義務の達成を果たしつつ、金銭的なリターンの両方を得られるんです。
E:まるで、AKBのファンがCDをたくさん買って推しメンを応援するような(笑)。
小松:確かにそれと似た側面はあるかもしれません(笑)。しかも、アートの世界では、作家本人から喜ばれるだけでなく、世間の名声を得られるし金銭的なリターンまであります。