ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

アートローヤー 小松隼也 
世界基準のアートコレクターとは

これだけある
資産としてのアートの魅力

E:ただ単に高価な絵を買って終わり、ではなく資産として運用する意識が強いですね。そこは日本人にはない発想だと思います。

小松:海外の富裕層は資産のポートフォリオに普通にアートが組み込まれています。車や不動産に比べて管理費が低いし、場所もそれほど取らない。それに、世界市場だから流動性が高い。

E:一時のバブルでも価値が暴落しないメリットもありますよね。

小松:そうですね。特定の地域にしか認識されていない作品は価値が不安定ですが、世界規模で著名な作家なら価値が暴落する心配もありません。世界中多くの地域で換金できるのも強みです。

E:アートに対してシビアな目を持つNYのコレクターは、どのような基準で作品を選んでいるのでしょうか?

エンリッチ 小松隼也4

小松:向こうのコレクターは「なぜその作品を持っているのか?」という点を重視します。センスが試されるというのはいい過ぎかも知れませんが、NYの社交界では、「君は誰のどんな作品を持っているんだ?」、「なぜそれを持っているんだ?」、「その作品は君のコレクションとどういう関連があるんだ?」といったことをよく聞かれます。それらの質問に答えられないとあからさまにがっかりされます。

だから僕もコレクションにはテーマを持たせています。ひとつは、弁護士で法律を扱っているので、法律、特に著作権に関わりがある作品であること。もうひとつはコレクションの中心である日本の写真家との関連性です。僕の好きな荒木経惟、細江英公、森山大道、そして彼らからインスピレーションを受けた作家や交流の深い海外のアーティストの作品といったようにですね。日本の写真は海外でも高く評価されているので話の食いつきもいいですね。日本で注目されている若手の写真家を紹介してくれといわれたり、実際にNYで日本の作家の展示が相次いで開催されています。

100年後に残る
作家の条件とは?

E:アートと著作権に関わりのある作家といいますと?

小松:僕が通っていたロースクールでは、インスタグラムの画像を流用したリチャード・プリンスの作品(参考URL:違法?合法?他人のインスタ写真を無断使用した作品が約1千万円で落札 アート界に物議)が議論の対象として取り上げられました。他人のインスタグラムの画像に彼がコメントを付け加えて、それをプリントして自分の作品にしてしまうという。アメリカは「法律があるから、こうでなくてはならない」という考えよりも、「法律を現状に見合うよう変えていくべき」という考えが強いです。人が作ったイメージを流用することで新たな価値を作り出すという手法を多用するリチャード・プリンスは、SNSで画像があふれる時代の新たな著作権の在り方を提唱しているとも取れます。

たとえば、100年後に2010年前後の時代を振り返ると「FacebookやインスタグラムなどのSNSが爆発的に広がった時代」として扱われると思うんです。では、「その時代のアート作品は?」と思い起こすと、リチャード・プリンスはまさにそんな時代を代表する作家として絶対に外せない立ち位置にいます。だから必然的に知名度も値も上がってくる。アートの価格が上がるルールと、しっかりとした芸術的な文脈を理解した上で見ると、リチャード・プリンスは本当に面白いアーティスト。私自身、コンセプトも表現も、もともと大好きなアーティストでしたが、そういった側面から見ても興味が尽きないんです。そのことを理解した上で、楽しんで買っているコレクターもいます。

エンリッチ編集部

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