ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

大山エンリコイサム 
現代アートとグラフィティ文化の関係を更新する

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Enrico Isamu Oyama in his Brooklyn studio, 2018 / Photo ©︎ Collin Hughes

ストリートのグラフィティ文化からの影響をベースに、巨大な壁画やライブペインティング、批評からエッセイの執筆まで縦横無尽に活動する気鋭の現代美術家・大山エンリコイサム。「クイック・ターン・ストラクチャー(Quick Turn Structure)」と名づけられた躍動感あふれるモチーフを軸にした数々の作品は、グラフィティの本場ニューヨークでも高い評価を受けている。現代アートとグラフィティの関係とは? アートにおけるリテラシーの問題とは? 個展を開催していた麻布十番のギャラリー「Takuro Someya Contemporary Art」にて、大山氏とギャラリーオーナー染谷卓郎氏に話を伺った。

*2016年に好評いただいた回のアンコール掲載です

アートとグラフィティの本場
NYを拠点に創作活動

ENRICH(以下E):グラフィティに影響を受けた大山さんが、現代アートの道に進むようになったきっかけを教えてください。

大山:グラフィティの影響を受け、憧れもありましたが、ストリートのライターにはなりきれずに、少しずれたところで活動を開始したんです。10代の頃はクラブでライブペインティングをしていました。そこでも僕と同じように、どのサブカルチャーにも帰属できないような絵描きが何人かいて、結果的に小さいコミュニティになっていました。

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NYのプライベート・イベントスペースNeuehouseでのライブペインティングの様子。Photo by Drew Levin
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Photo by Drew Levin

でも、小さいコミュニティの内輪で馴れ合っていても先がない。それに対して、現代アートの世界には批評性があって、自分たちのやっていることを吟味して外部とつながろうとする姿勢があると感じました。批評のひとつの機能に「自分を問い直す作業」があって、それは自分を外部に開いていく契機をつかむ行為でもあります。そうした問題意識から美大に進学し、現代アートの世界を志すようになりました。

E:活動拠点をNYに移した理由を教えてください。

大山:グラフィティの誕生地であることが大きいですね。僕が制作でやっていることは、グラフィティの視覚言語のエッセンスを抽出して、再構成するようなことです。それをどう意味づけしてアートの文脈に組み込んでいくかを考えると「どういう歴史からその表現が生まれてきたのか」という背景の説明が必要になる。

NYにあったグラフィティのメッカ「5Pointz」のグラフィティ(2009年当時)。Photo by Enrico Isamu Ōyama
NYにあったグラフィティのメッカ「5Pointz」のグラフィティ(2009年当時)。Photo by Enrico Isamu Ōyama

歴史の地層を掘り起こしてみたい、そんな気持ちで2011年にアジアン・カルチュラル・カウンシル(※2)の助成を受け、NYで半年間の研修をしました。2012年には、本格的に移住しました。

E:実際に住んでみてNYはどうですか?

大山:NYは大変な街です。いくらインターネットで情報がグローバル化・リアルタイム化しても、住んでみないとわからないことが本当にたくさんあります。個展もグループ展もいくつかやりましたが、今の自分に満足はしていません。NYに住むメリットは、世界中のキュレーターやコレクターとつながることでしょうか。それによって制作のペースも活動の速度も高まります。そして、アートマーケットの大きさは世界一です。出会った人とのつながりを活かしてグローバルに活動していくことが目標かな。

(※1)1963年にジョン・D・ロックフェラー三世が設立した財団。過去、村上隆、草間彌生、三島喜美代などの著名アーティストが同財団からの助成を受けている。

エンリッチ編集部

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