個々のアートを買うことは
背後の物語につながること
E:では、あまりグラフィティに馴染みがないと思われるENRICH読者に大山さんの作品の特徴をお願いします。
大山:僕のメインのモチーフであるQTSは、運動する線の連続体です。連続体というのは途切れずに拡張するイメージがあるからで、個別の作品ではキャンバスのサイズなど物理的要因によってQTSは特定のサイズに断ち落とされますが、その背後には連綿と無際限に広がる線の想像力があるんです。ひとつのピースを所有することは、同時に背後の抽象的な連続体を分けもつことだから、ほかの作品ともつながっています。
「FFIGURATI #127」
たとえば、中世の宗教画は聖書の特定の場面を描いたものが多いけれど、個別の作品の向こうに「聖書」という大きな物語がある。ひとつの作品は物理的に限定されているけれど、背後の物語を分有している。それに似ています。
E:アートを買うということは、単なるモノを手に入れるのではなく、そのバックストーリーを共有するという意味もあるんですね。
大山:現在のアートのシステムでは、そのバックストーリーは美術史ということになると思います。例えばセザンヌはピカソに影響を与えた…そのピカソは戦後アメリカ美術に影響を与えて…という歴史があって、ピカソ作品をもつことは、そうした歴史の断片を所有することになるわけです。そうやってアカデミズムとマーケットが両輪で噛み合わさって価値が生まれる。アートのシステムの原理です。
でも、若いアーティストはいきなりそんな大きな美術史の流れに自分を関係づけられるわけではないし、国や時代も違えばリアリティも異なる。やっぱり、自分にとってリアルな現実から始めるしかないんです。僕の場合は、それはグラフィティの問題だったし、そこで自分なりの立ち位置からどう歴史を立ち上げ、美術史に関係させられるかということをやっているんだと思います。
でも、ここにまたリテラシーの問題がありますよね。歴史を知らないと、買うことに踏み切れないのか……、ということはないと思います。アートを買う行為自体が、アウトサイドからインサイドに参入するためのアクションになるんです。そのときに、歴史や文脈の理解があればより楽しいかもしれませんが、そこは人それぞれ。作品を見て直観的に欲しいとか、作家を応援したいという気持ちを大事にしてもいい。それが入り口となってコレクションが増えていく。