アートを知るためのパートナーがいると、
鑑賞から所有へと楽しみ方も広がる
「私自身もウィルデンスタイン東京に在籍時は、ルネサンス絵画やフランス・ロココ絵画、またゴッホやセザンヌ、ロダン、ピカソといった巨匠、そしてウィルデンスタインはNYに現代美術のギャラリーである『ペース・ウィルデンスタイン(現在はペース・ギャラリー)』を持っていたこともあり、戦後美術のアグネス・マーチン、イサム・ノグチなどから現在アートの大家まで、多岐に渡って取り扱ってきました。またお客様は様々なものをコレクションしているので日本画、骨董、刀剣からアフリカン・プリミティヴ・アートやアンデス文明の土器など、アートディーラーといえば一般的にはある時代の作家や作品に特化するケースがほとんどであるのに対して、私は何でも扱ってまいりました。それこそ、絵画の修復や額縁の見方まで。この年齢では珍しく、そういったキャリアがあったからこそ、著書でも多角的な視点で美術を解説できたと思います。それに、私はもともとアーティスト出身なので、『描く側』『見る側』『売る側』という、3つの視点から美術を捉えることができます。本書でもこれは意識して書いたので、読者は誰もが“どこかに引っかかる”と思います」
本書を通じて、三井氏のような「アートのアドバイザー」がいるのを知ってもらうことも狙いだ。そもそもコレクターであれば、黙々と一人ではなく、アートディーラーをはじめとするパートナーと一緒に作品を集めているケースが多い。
「コレクターの軸を中心に、アドバイザーと協力しながらポジションを作っていくという感じです。私も独立してからはプライベートアートディーラーとしてお客様から相談を受け、ニーズに合った作品を紹介・提案しています。また、ギャラリーや展示会へのアテンドなど、アートを身近にしていただくための活動も行っています。言うなれば、苦手意識のある美術に対する閉じられたシャッターを上げて、窓を開けるのが私の役割だと考えています」
仮にアートを所有するとしても、誰の作品がどれだけあり、どのくらいの価格なのか、そして贋作とは。我々が知り得ないところをディーラーがサポートしてくれるというわけだ。
「価格の面から言うと、昨年に絵画作品として史上最高額の510億円で落札された、レオナルドダ・ヴィンチの『サルバトール・ムンディ』を筆頭に、300億円以上の作品が4点、120億円以上は80点あるとされています。とはいえ、名画は美術館に収蔵されるなど市場に出回らなくなると二度と個人の手に入ることはなく、逝去した作家であれば作品数は限られ、市場から姿を消したり欲しい人が増えると価格はさらに上がっていきます」
現代アートにしても、数十万円~数十億円とレンジは幅広く、どういった作家や作品に注目していけばいいのか、皆目見当がつかない人も多いだろう。三井氏の著書をきっかけに学び、行動に移してみてはいかがだろうか。
今後は、アートの基本的なノウハウ、さらには所有のポイントについて、三井氏のコラムを展開する予定だ。こうご期待いただきたい。
三井一弘(みつい・かずひろ)
アートディーラー/アート解説者、ミツイ・ファイン・アーツ代表、水野学園理事。
1970年横浜市生まれ。国内で現代アーティストとして活動した後、アートディーラーに転身。ウィルデンスタイン(NY)の東京店にて、イタリア・ルネサンス絵画や印象派、現代美術など、多岐にわたり取り扱う。2016年に独立し、現在は古典美術から現代アート作品までコレクターに紹介する傍ら、現代アートとアート市場についてセミナーで講演するなど、精力的に活動を行っている。
「アート鑑賞BOOK この1冊で《見る、知る、深まる》」
知的生きかた文庫 1,058円
この本を読まずして、美術展に行くのはもったいない!
西洋絵画から浮世絵、彫刻、現代美術まで、アートをより深く楽しく鑑賞するためのポイントをたっぷり解説。気鋭のアートディーラーによる鋭い考察、知られざる秘話が満載の今までにないアート鑑賞解説ブックです。
TEXT:大正谷成晴
撮影:FUMINA HAYASHI