解体した美術を新しい概念で「再生」
革命家のラストとして取り上げるのは、現代アートの巨匠として知られる、アンディ・ウォーホールです。彼は1950年代半ばにイギリスで始まった「ポップアート」を60年代に入りアメリカで広めた、ポップアート運動の立役者として、あまりにも有名です。
デュシャンも次のように述べています。「絵画の世界がどんなに抽象化されても、それはやはり網膜的であるが、しかしポップアートは唯一それを打開してくれる存在であるかもしれない」と。
ポップアートとは、それまで芸術とは程遠いとされていた商業的な広告や漫画など、実用的・大衆的なビジュアル表現をアイコンにしたアート作品を指し、ウォーホールはこれにより芸術界の寵児になりました。
彼は、「キャンベル・スープ缶」をはじめ、アメリカの大量生産、大消費社会を取材とした作品を次々と発表しました。この作品は缶詰を並べたシンプルな作品ながら、パターンを繰り返し表現することで、モノを大量に生産して消費する資本主義経済への批判のメッセージを込めているとされています。現代アートの多くはコンセプトの上に成り立っていますが、彼もポップアートを通じてそれを体現したのです。また、こういった表現により、誰にでも理解しやすいアートとして大衆化することにも成功しました。なぜならば、それまでの抽象表現主義の作品は一般的な観衆には難解で理解が進まなかったからです。
ここまで、西洋美術の大まかな流れに触れましたが、まとめると、ルネサンス期に美術の基本となる「古典」が作られ、それがフランス美術アカデミーの「権威」となり、19世紀からは権威を「解体」する時代が始まったということです。視覚的に新しいものを生み出すかを追求する作業の連続で、美術はどんどん抽象化、観念化し、解体しつくしたところで権威から脱し、新しい概念を持つポップアートが生まれたというわけです。
ポップアートは西洋美術の一つの終着点であり、現代アートの出発点であるともいえ、歴史の流れにより美術の新時代が訪れ、アートの可能性は広がり現代アートに繋がってきました。そうであれば、一見するとまったく新しい現代アートも、じつは西洋美術の流れを脈々と受け継いでいることがわかります。理解するために、アートの歴史を知っておいた方がいいというのは、こういった理由があるからです。
*2018年に好評いただいたシリーズのアンコール掲載です
三井一弘(みつい・かずひろ)
アートディーラー/アート解説者、ミツイ・ファイン・アーツ代表、水野学園理事。
1970年横浜市生まれ。国内で現代アーティストとして活動した後、アートディーラーに転身。ウィルデンスタイン(NY)の東京店にて、イタリア・ルネサンス絵画や印象派、現代美術など、多岐にわたり取り扱う。2016年に独立し、現在は古典美術から現代アート作品までコレクターに紹介する傍ら、現代アートとアート市場についてセミナーで講演するなど、精力的に活動を行っている。
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