表現方法に制限はない
何が後世に残るかも未知の世界
現代アートのジャンルには縛りはなく、絵画や彫刻に加えて従来にはなかった表現方法やテクノロジーの採用も珍しくありません。
例えば、映像と音声を扱うビデオアート。フィルムやビデオテープ、いまならDVDといった記録媒体を使い、壁やスクリーンに作品を映し出す作品です。空間全体がアートで体験型といったところでしょうか。没入感が感動を誘う独特のジャンルです。
家電製品使ったインスタレーションを1980年代から発表し続けている宮島達男氏は、近年、作品にAIを活用しています。彼は1988年にヴェネツィア・ビエンナーレに出品した『Sea of Time』で一躍有名になりましたが、同作品は暗い部屋の床一面にLEDのデジタルカウンターを用いて数字が1から9までカウントするというもの。これは生から死を表現するとともに「繰り返す=輪廻」を表していると言われています。そしてカウントする速度は個々によりバラバラで、すなわち「カオス」までも表現していると感じ取れるのです。
そんな彼の新作には人感知センサーが使われていて、作品の前に人が来ると感知して、それぞれが独立して異なるカウントを行います。作品自体に頭脳があり、作家から手の離れた働きをする新機軸のアートといえるでしょう。
このように、制約がなく自由で多岐にわたる表現を許されるのが現代アートの世界です。ただし、それゆえ今後何が生き残っていくのかは、わかりません。現代のルネサンスは始まったばかりということもあります。
そもそも、美術は過去にも淘汰を繰り返してきました。例えば彫刻の世界。16世紀のミケランジェロと19世紀のロダンの間には約300年も開きがありますが、その間に活躍した彫刻家をあなたは何人答えられますか? 5人も名前を挙げられたら立派です。
しかしこの間にも5人どころではなく、もっと大勢の彫刻家がいて当時はそれなりに人気のあった作家もいたはずです。ところが時代の流れとともに忘れ去られてしまい、今日にいたります。それは現代アートも同じで、いまは評価が高くても近い将来、さらには遠い未来にはどうなっているのか……それは誰にもわからず、後世に託すしか手立てはないのです。
ーーー権威の解体の後、再生の道すがら、好景気に沸くアメリカを中心に誕生した、現代アート。「網膜的」ではなく「人の心を動かす」作品であればいいという、自由で縛りのない芸術といえそうだ。次回も、その特徴を解説していこう。
*2018年に好評いただいたシリーズのアンコール掲載です
三井一弘(みつい・かずひろ)
アートディーラー/アート解説者、ミツイ・ファイン・アーツ代表、水野学園理事。
1970年横浜市生まれ。国内で現代アーティストとして活動した後、アートディーラーに転身。ウィルデンスタイン(NY)の東京店にて、イタリア・ルネサンス絵画や印象派、現代美術など、多岐にわたり取り扱う。2016年に独立し、現在は古典美術から現代アート作品までコレクターに紹介する傍ら、現代アートとアート市場についてセミナーで講演するなど、精力的に活動を行っている。
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