アートディーラー/解説者として知られる、三井一弘氏による本連載。今回は「現代アートとは?」をテーマに解説を進めている。ーーー
“グローバル”を意識していることも
現代アートのマスト条件
グローバルに展開・流通しているのも、現代アートの特徴です。アート作品の売買の世界には1年間のオークションデータをまとめた『メイヤー』という記録台帳があります。1950年代から発行してきましたが、その本の厚みが物流の数に直結しています。各年で本の厚みはやや異なるものの、さほど違うことはありませんでした。世界中でアートに関心がありオークションに参加するほどのマニアなアートファンは一定数だったというわけです。
ところが『メイヤー』は96年から2冊に増え、2000年に入ると3冊に。以降は本からネットに情報管理は移りましたが、現在だとそのボリュームは本換算で年10冊ほどになっていると思います。
およそ20年間でアートに関心を持ち売買をする層、及び物流量が10倍になったと考えられるわけですが、その背景にあるのが「インターネット」です。1995年にはマイクロソフトが『Windows 95』を発表し、以降ネットインフラは世界中に広まっていきました。これに伴いアートの情報もグローバルに広まるようになり、多くの人が手に取ってみたいと行動を起こすようになったと考えられます。いまや、オンラインで取引もできますから、どこにいても売買ができる利便性も。ITの進歩により新たなビジネスが生まれたり、中国をはじめとする新興国の経済成長によりエグゼクティブが新たに誕生していることも、取引量が激増した背景にはあるでしょう。
しかし、亡くなった作家の作品には限りがあり、かつオールドマスターの作品は美術館に寄贈されたり、あるいはコレクターがすでにストックしていてマーケットに出てきません。すなわちオールドマスターの作品は品薄状態になっているのです。そこで注目されているのが現代アートというわけです。アート全体の取引ボリュームが増えているのは、彼らに対するニーズが高まっていることを意味します。ドイツ最高峰の画家と呼ばれ、世界でもっとも注目を集める画家のひとりである、ゲルハルト・リヒターであれば、存命の作家としては史上最高額で60億円の価格がついた作品もあるほどです。作家が亡くなってから作品の価値が上がるというのは昔の話で、いまは活躍中の作家の作品がリアルタイムで上昇していく時代です。
そして、時には数十億円もの価値がつく現代アートは、必ずグローバルで流通しています。というのも、国内だけで展開してもファンの数や見られる機会には限りがあり、評価=価格も青天井というわけにはいきません。ところが、グローバルが対象だとエグゼクティブを含む世界中のアートファンの目に留まり、大勢が欲しがる作品であれば価格はうなぎのぼりを続けます。そういった作品を国内に持ち帰ることで、より注目度は高まり、さらなる評価アップにつながることもあるでしょう。