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The Style Concierge

各国のアートに関する税制を見てみよう

METROPOLITAN MUSEUM 

美術品の市場価格と
同額の税金が控除される海外

海外諸国では、美術品を特定の条件を満たした団体に寄付することで税金が大きく控除されます。海外と日本におけるマーケット規模の大きな差は、ここに一つの要因があるといえるでしょう。アメリカでは、コレクターが1年以上保有した作品を非課税団体に寄付した場合、その作品の市場価格と同じ額の所得税や法人税が免除される制度が存在します。これはコレクターにとってはかなり大きな優遇措置です。たとえば事業で1億円の売上を出して、その半分が所得税として徴収されるとすると、市場価格が5000万円の作品を寄付すれば全額が控除されるわけです。

ここでいう控除額は、寄付時のオークションの相場やギャラリーでの価格などが算定の根拠となるといわれています。つまり、購入時の価格が100万円だったとしても200万円だったとしても、現時点で、その作品がオークションで落札されるであろう価格と同額が控除されることになります。

非課税団体の定義は「団体の運営費用の1/3以上が寄付で成り立っている団体」です。この定義を満たしているNPOや私立の美術館などは寄付による税額控除の対象となります。ニューヨーク近代美術館(MOMA)やメトロポリタン美術館、グッゲンハイム美術館などの作品の説明書きをよく見てみると、ほとんどの作品が個人または財団等のコレクターによる寄付であることが分かります。実際に、美術館のキュレーター、コレクター、アーティスト、ギャラリストが一同に集まり、どの作品を寄付によって美術館に寄贈するかというミーティングが日常的に行われていました。

また、美術館にはこの寄付制度の条件を満たすか否かを検討するための部署があることも珍しくはありません。美術館はこの制度を活用して重要な作品を所蔵しコレクションを充実させ、アーティストやギャラリーは自らの作品をより広く発表する機会に恵まれ、コレクターは社会からの謝意と税制の優遇を受けることができるといった好ましい循環が機能しています。

このような税制優遇措置に対して「お金持ちから税金を取るのではなく、優遇するとは何事か」という声が聞こえてくるかもしれませんが、美術品の寄付による最大のメリットは、個人の私的なコレクションが公に還元される点にあります。個人の所蔵作品が美術館に寄付されるということは、一部の富裕層だけではなく、誰でもいつでも素晴らしい作品を見られるようになるということ。実際にアメリカでは「あの人はアメリカの歴史上とても重要な作品を美術館に寄付して、われわれ一般に公開してくれた人だ」というリスペクトが自然に集まっていました。コレクターは成功者としての社会的義務を果たしたという達成感と、税金が控除されるというメリットの双方を得ることができます。そして、コレクターも自然と、「これは将来重要な価値を有する作品だから、美術館に寄付することになるだろう」という意識を持つようになるといいます。そのような意識がコレクターの審美眼を磨くともいわれていました。

小松隼也

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