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アートと経営の共通項とは?

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経営者にこそ伝えたい「価値のある作品」と「アーティスト思考」そして、「コレクションの楽しみ」。アートと経営の共通項とは?

アーティストとは好きな作品だけを作る人?

今回はコレクターとしてとても多く質問を受ける「価値のある作品」を見極めるポイントは?という典型的な質問に対する自分なりの回答と、私が考える「アーティスト思考」についてお話ししたいと思います。アーティスト思考と言っても、「0から1を産み出す方法」とか「自由な発想で物事を考えてみよう」とか、それに類するような説明とは異なるものです。私が伝えたいアーティスト思考とは、「クリエイティブな発想をしましょう」ということではなく、自分の会社やビジネスが生み出すサービスを、アーティストが生み出すアート作品と同じフレームで捉えてみるということです。

皆さんは「芸術家」、「アーティスト」と聞いてどんなイメージを思い浮かべますか? なにか、世間やお金のことには目もくれず、自らの技術を高め、独創性を追求し、自分の作りたいものや表現したいものをただひたすらに作り続けるといったイメージをお持ちでしょうか? たしかにそのようなアーティストもたくさんいます。

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しかし、世に残る、歴史に残るようなアーティストやアート作品は、そのような観点のみでは評価しきれません。「これまでの歴史や文脈を踏まえ、自らの作品が現在においてどのような意味を成し、そして、その後、どのように歴史を紡いでいくか」という観点が非常に重要です。なぜなら、この観点に沿う作品は、必然的に歴史の1ページとして将来にわたって残ることになり、自然と価値が高まっていくのです。すべてのアーティストがこのことを考えて創作活動に励んでいるわけではありませんし、このような価値付けを行うのは、どちらかというと、アーティストではなく美術館や批評家なのですが、このような考え方を意識的にせよ無意識的にせよ作品に実現できている作家の作品はとても魅力的ですし、作品の価値も自然と上がっていくように思います。

過去と現在を踏まえ将来に繋げる
それが、歴史に残るアート

絶えず自らの表現活動の意味を自問自答し続け、自らの歴史やアートの歴史を踏まえて、現在の社会に自分の作品として何を生み出すか。そして、作品が将来に何を紡いでいくか。それらがマッチした作品こそが後世に残る作品、つまり「価値のある作品」と言っても過言ではないかと思います。

優れたアーティストには、意識的であるか無意識であるかの違いはあれど、そういった思考で活動している人がいます。実はこの思考、弁護士や経営者が見習うべきことがとても多いと私は考えます。具体的には、目先のタスクや利益、シェアの獲得のみを求めるのではなく、仕事や経営においても、「過去の課題や現在の社会の潮流を捉えて、自らの専門性や得意な分野を活かして、どのような方法でサービスや商品を社会にアウトプットするか。そのような活動が将来的に社会をどのようによりよくしていくか」。このような観点で自らの仕事や経営を振り返ったときに気付くことはとても多いと思います。

確かにビジネスにおいて利益やスピードは重要な要素ですが、1度しっかりと立ち止まって「これまで自社が取り組んできたこと」「産業の抱える共通課題」「自分が本当にしたいこと」、「将来、社会にどのように役に立てるのか」を振り返ったうえで、「自分の強み」を活かして生み出すことができる最善のサービスや商品、つまり、作品は何かということを考えてみることは非常に有意義であると考えます。自分の仕事を広範な表現活動として捉え、アーティストが作品を創作することと対比してみて欲しいのです。私は、そのように考えたときに、自分が急に崖っぷちに立たされている気分になると同時に、これまでは鑑賞の対象としてのみ捉えていた作品や作家が、急に同世代に生きるライバル達に思えてきました。そして、自分の仕事のアウトプットの質のみではなく、意義を高めていきたいという考え方に変わりました。

アートと経営と聞くと、多くの人は正反対のイメージを持たれるかもしれませんが、アーティストや作家と触れあうことは、自らの経営理念に対して、非常に有意義なフィードバックを得る事ができる貴重な機会だと思います。いい作品をコレクションすることもできて、自分のビジネスにもよい影響を得ることができるなんて、これ以上の趣味はありません。経営者だからこそ「アートの本質を理解し共感する目」があり、ひいては「独自のコレクションを作り出す楽しみ」にもつながると私は考えます。

小松隼也

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