政府の目標は2027年までに
キャッシュレス決済比率4割
モバイル決済が推進する背景には、経済産業省が掲げる「2027年までにキャッシュレス決済比率4割」という目標が関係しています。
世界各国のキャッシュレス決済比率(2015年)を見ると、韓国は89.1%で1位、これに中国(60%)、カナダ(55.4%)が続き、日本は18.4%という極めて低い水準でした。これを後9年で2倍以上に引き上げたいというのが政府の考えです。
なぜキャッシュレス化なのかというと、日本は少子高齢化や人口減少に伴う労働者人口減少の時代を迎えていて、国の生産性向上は喫緊の課題です。そこでキャッシュレス化は、実店舗の無人化省力化、不透明な現金資産の見える化・流通の抑止による税収向上、支払いデータの利活用による消費の利便性向上など、挙げればキリがありません。近年は従来のカードだけではなく、モバイル決済など新たな技術も出てきていて、これらを活用してキャッシュレスを進めたいわけです。そもそも、現金の流通量が減るとお金を刷るコストも減りますから、国にとって悪い話ではありません。
参入する企業にも様々な思惑はあり、銀行であればモバイル決済を通じて自行へのロイヤリティを高める、あるいは決済データの活用、クレジットカード会社は決済を増やすことによる収益性の向上、ベンチャーはフィンテック参入による成長が見込めます。
一方、課題がないわけではありません。それは、キャッシュレス化を実現する方法です。従来のカード、モバイルではタッチやQRコードなど手段はたくさんあり、参入各社の姿勢もバラバラだということです。例えば、非接触チップのIC決済は、Suicaからもわかるように、圧倒的な決済スピードを実現していて、手間もかかりません。対してQRコードは機種に依存することなく画面に表示させられるので、タッチよりも汎用性は高そうです。そんな理由もあるので、採用する技術に違いがあるのだと思います。
とはいえ、各社によって仕様が異なると、ユーザーにとっては使い分けの手間、加盟店舗にとっても複数の決済端末・技術を導入する必要があるなど、効率的ではありません。本来、これだけ大胆な構造改革を行うには、国がある程度主導しないと実現は難しいと思います。
ただでさえ、日本で個人金融資産の大半を握っているのは、テクノロジーに対する関心の薄い高齢者で、若者の中でも「カードは怖い」「現金で十分」といった理由で、現金至上主義者は少なくありません。こういった人たちの意識を変えるのにもひと苦労するでしょう。
例えば韓国では、年間のカード利用額の2割を控除するという施策を1999年に打ち出し、その後3年間で利用額は7倍に増えました。キャッシュレス先進国のスウェーデンでも政府がイニシアティブを握り、複数の金融機関が協業して決済アプリを開発・提供することで普及を加速させています。インドでは高額紙幣を廃止して電子マネーを普及させるなど、キャッシュレス先進国はいずれも、国がドラスティックな改革を行い、成功に導いたのです。
日本も似たような施策を行うなど、政府による積極的な介入が必要だと思います。