資産デザイン研究所代表の内藤忍氏が、各界のプロフェッショナルと投資談議に花を咲かせる、この企画。3月のゲストは、美術商・アートディーラーの、三井一弘氏だが、今回は「アートディーラー」の役割について尋ねてみることに――。
ギャラリーと顧客を
結びつけるのが大きな役割
内藤 三井さんは「アートディーラー」ということですが、役割や立場を教えてください。例えば、絵画などの美術品の作家の発掘を手掛けたりするのでしょうか。
三井 それは「ギャラリスト」と呼ばれる方々の役割で、彼らは、将来有望な作家を発掘し、育てて売り出す「プライマリー」としての役目も担っています。90年代前半の国内の現代美術業界はとてもアングラで、取り扱うギャラリストは少なかったのですが、「このままではアート市場が衰退する」という危機感から、2000年前後から若手作家を育成するギャラリストが増えていきました。
近年は国内だけではなく、グローバルな視点でプロモーションするケースがほとんどで、海外のアートフェアに積極的に出展し、作家のネームバリューを高めることに腐心しています。大規模のフェアだとワンブースを出すのに500万円はかかります。若手作家だと一点高くても100万円程度ですので収支はトントンといったところですが、海外のお客様が面白いと評価してくれると、世界中に日本の現代作家のファン層を拡大できます。
内藤 日本のアート市場はバブル崩壊以降、しぼんだままですし、それよりはグローバル展開したほうが、作家の価値をより高められるというわけですね。
三井 バブル崩壊以降、日本のアートマーケットが衰退したままでいた理由には、当時のギャラリーが海外に日本人作家のマーケットを作れなかった事が大きく関係していると思います。日本にしかマーケットがない作家だと、国内市場が低迷すると、作品の値段も下がってしまいます。かつて、横山大観や梅原龍三郎といった日本人作家は国内で高く評価されていましたが、海外での知名度はそれほど高くなかったため、価値は10分の1程度になってしまいました。いまでは多少持ち直しているものの、地方の資産家たちが買い支えている状態です。
一方、IT起業家などニューリッチ層は、現代アートに注目するようになり、日本人作家も海外で認められ始めています。ギャラリストもこういった状況を背景に、世界に日本人作家のマーケットを作ろうとしているのです。日本で売れなくても活路を見出すことができ、海外で売れたら日本に逆輸入するという手もあります。