資産デザイン研究所代表の内藤忍氏が、各界のプロフェッショナルをお招きして、資産運用にまつわる旬のトピックを取り上げる、本連載。8月は、アナキャムパートナーズの竹口社長とカンボジア不動産投資をテーマに対談を行っている。今回で締めくくりだが、話は尽きそうにない――。(1/4回から読む)
経済の成長フェーズだから
賃貸にも苦労しない
内藤 新興国不動産投資で問題になっているのは、完成物件にテナントがつかず、かつ売ろうにも価格が下がっていて、流動性も乏しいので買い手がつかないというケースが増えていること。アナキャムパートナーズの場合、管理物件の95%が稼働しているのはかなり高い数字ですね。
竹口 プノンペンという立地の良さもありますし、我々の企業努力も(笑)。
内藤 基本的に借り手は駐在員になりますか?
竹口 そうです。「デキャッスル」だと全体では、入居者の半分はカンボジア人の富裕層ですが、彼らが住むのは、160㎡の3ベッドルーム。これらは、実需で成り立っています。一方、1ベッドや2ベッドルームは投資家が買っていて、現地の駐在員がテナントであることがほとんど。当社の場合、40戸管理していて、38戸に入居者がいて、6割は日本人。大使館やジャイカ、現地の銀行、商社勤務の方々です。
内藤 今後もカンボジアを訪れる人は増えるのでしょうか?
竹口 直行便の就航による観光客の増加、さらにはODA拡大や日系企業の進出など、ポジティブな要因はたくさんあります。自動車メーカー及び自動車部品のサプライヤーはタイなどに製造拠点を構えていますが、ワーカーの月給は600米ドル。対してカンボジアの法定最低賃金は127米ドルで、残業を入れても200米ドルにもなりません。タイに比べると3分の1という水準ですから、製造業が進出する余地はあります。
内藤 民間投資額は中国がトップとのことですが、これには理由が?
竹口 正直なところ、カンボジア成長の源泉は、中国が握っています。政治的な活動の影響でフィリピンやベトナムに進出ができず、マレーシアやインドネシアなどイスラム圏の人々は、チャイナヘイト運動を展開するほど。ラオスは人口が少なく、バングラデシュは地理的に遠すぎるので、現実的に中国本土の製造業が工場の移転等として進出できる国は、カンボジアかミャンマーの2国に絞られます。そういった背景もあり、中国企業の進出が止まらないのです。国内の景気が鈍化するなか、利益を出すには国内の製造拠点を海外に移さないといけない事情もあります。「脱・世界の工場」の受け皿の一つとしてカンボジアに白羽の矢が立ったというわけです。
習近平の粛清政策も影響で、マカオに年1回しか行けなくなったことも関係しています。いま、香港とマカオの経済規模は沈下していて、昨年はいよいよ、香港は深センに抜かれたほど。アリババやテンセントを中心にハイテク企業が深センに集まり、いまや北京をはじめとする北のアリアより、広州や深センといった南のエリアの方が盛り上がりを見せています。不動産価格も国全体では下がっていますが、南部エリアは上がっていますから。そして、これら地域に住む富裕層を中心に、地理的に近いカンボジアのカジノにやってくるのです。また、中国本土はPM2.5が大変で、逃避先としても選ばれています。かつて、日本人がリタイア後にバンコクやマレーシアを目指したように、中国人にとってのラストリゾートがカンボジアだということです。さらに、日本も直行便やODAを通じて割って入り、東南アジアでの地位を築きたいという思惑があります。だからこそ、今後も伸びしろは大いにあると考えています。