資産デザイン研究所代表の内藤忍氏が、各界のプロフェッショナルと投資談議に花を咲かせる、この企画。
今回は特別編として「2015年の投資戦略」について、内藤氏に語ってもらうことにした。
2015年最大の注目点は、先進国の中央銀行の金融政策、そして原油安だという内藤氏。実物資産への資金の流れが強まるという予想を立てている。
欧州もついに金融緩和政策を実施
2015年に入り、今年の投資戦略をどうすべきか考えている人は多いでしょう。
まだ2月になったばかりですが、金融マーケットには大きな動きがありました。そのひとつは、欧州中央銀行が、日本やアメリカと同じように、量的金融緩和を始めたこと。景気低迷にあえぐ中、デフレ懸念が広がり、ついに欧州も日米に追従して、やらざるをえないところまで追い詰められたということです。
ユーロの金利も一段の低下が見込まれますが、それによって起こりうるのがユーロ安です。すでに日本は10年国債の金利が0.3%で、アメリカは1%台に低下。ユーロ圏では、マイナス金利という国も出てきました。量的金融緩和=市場にお金を大量に流通させるのですから自国通貨の価値は下がり、先進国の間で低金利が広がっていくというわけです。その中でもユーロの動きには要注意だと考えます。
資産運用全体で見ると、低金利で債券運用や預貯金では金利が付かない状況が続きます。また、金利低下によって、お金の流動性が高まり、株式や不動産に流れるという動きが予想されます。つまり、2015年も2014年に続き株や不動産投資に対する関心が世界的に高まる動きが続くと予想できるのです。
伝統的な資産運用では、キャピタルゲイン(値上り益)は株式、インカムゲイン(金利収入)は債券というのがセオリーでしたが、債券金利によるインカムゲインが見込めなくなり、今後は債券に替わり不動産に注目が高まると考えています。
現に日本では個人投資家の間でワンルームマンション投資が人気となっています。利回りは4%台ですが、預金金利が1%以下でほとんど期待できない中では、リスクを取って投資をする価値があると考える人が増えているのです。
このような傾向は、日本以外でも広がっていくことでしょう。
原油安がもたらす影響は?
もうひとつは、昨年から続いている原油安です。その原因は、アメリカにおけるシェールガスの掘削技術が確立です。世界のエネルギー供給が大きく拡大しました。
通常であれば、産油国の供給調整によって価格の下落が止まりますが、サウジアラビアを中心とした産油国は、減産による価格調整をやめました。価格の維持よりもシェアの確保を選ぶことにしたのです。
原油の価格競争によって当面はエネルギーコストが下がる訳ですが、アメリカは自国で消費をするので、低価格のほうがメリットは大きくなります。対して、サウジアラビアなどエネルギー輸出国は価格低下でダメージを受けました。そして、その煽りを一番受けたのがロシアです。輸出がエネルギーに偏っている国は、景気が悪化して、貿易収支も赤字、通貨が下落するという問題が起きているのです。エネルギーに依存した国の通貨は不安定な状態が今後も続くといえるでしょう。
ただし、原油安による、メリットとデメリットのどちらが大きいかというと、グローバル経済にとってはメリットが大きいと思います。原油安は世界経済のインフレを抑えることになり、エネルギーコストの低下は消費者にメリットがあるからです。日本でも実際にガソリン価格は下がっていて、電気代も下がるかもしれません。消費に対するプラスの効果となるのです。
中央銀行の政策リスクが大きな脅威になる時代
また1月には中央銀行の金融政策でマーケットが混乱する事態もありました。スイスの中央銀行が為替介入を突然停止すると発表した出来事です。いままでは自国通貨であるフランの無制限介入を宣言し、売り続けていたのですが、1月に入り突然やめることを宣言しました。想定していなかった突然の政策変更により、市場は大混乱をきたしました。日銀の黒田総裁が、これまでの2%を目標とするインフレ政策を突然辞めると発表するようなものです。
スイスフランがユーロに対して、1.2フランだったのが、一気に0.8フランまで急上昇し、フランを売っていた投資家たちは、大損害を被ることに…。日本人からすると、昨日まで1ドル120円だったのが、いきなり80円になったような感覚です。FX(為替証拠金取引)レバレッジをかけていた投資家の中には保証金が足りずに、FXでは通常発生しない追証が発生したケースも出現しました。
ここで認識しておくべきことは、これから投資家は、中央銀行の政策リスクの影響を受ける可能性が高くなっていくということ。日本の投資家であれば、日本の中央銀行である日銀の金融政策に常に注意をすべきでしょう。
安定的な投資対象に資金は流れる
投資対象としては世界的な金融緩和の継続の中で、株や不動産への投資が注目できると言えます。去年も盛り上がりを見せましたが、今年もそれは継続すると考えられます。
一方で、値上がりしすぎて割高になっているケースもありますから、一時的な調整に入るリスクも考慮しないといけません。株や不動産だからといって、何を買っても儲かるというわけではなく、ひとつひとつをセレクティブに捉えていく必要があります。
投資対象は海外なのか日本なのか、先進国なのか新興国なのかというのが、まず考えなければいけないことですが、そこで重要なのは情報収集。近年はインターネットなどを通じて、得やすい環境も整ってきました。昔はカンボジアの情報なんてなかったのが、いまは当たり前のように入ってきます。それらを判断材料に、どこが有望なのか考えていけばいいというわけです。
個人が得られる投資情報には、限界があることも事実。そこで次回からは不動産投資を主題に、国内外の投資環境やメリット・デメリットについて、触れていきたいと思います。
ーーー確かにここ数年は、各国中央銀行の政策に伴い、通貨の価値は激しく上下。世界中の投資家が翻弄されていて、安定的な投資というには、ほど遠い。そこで内藤氏が有力視するのが“不動産”だが、具体的にどういったエリアが考えられるのか。次回は、国内外の不動産ついて掘り下げていこう。
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内藤 忍(ないとう しのぶ)
株式会社資産デザイン研究所代表取締役社長
一般社団法人海外資産運用教育協会代表理事
東京大学経済学部、MITスローン・スクール・オブ・マネジメント卒業(MBA)。
大学卒業後、住友信託銀行に入社。
1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。
その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。
2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。
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早稲田大学オープンカレッジ、丸の内朝大学などで講師を務め、雑誌、ネットでの連載コラムを担当。主な著書にシリーズ10万部を超えるベストセラーとなった「内藤忍の資産設計塾」シリーズ。「60歳までに1億円つくる術」「「好き」を極める仕事術」「丸の内朝大学マネーの教科書」「究極の海外不動産投資」など多数。最新刊は1月末に出版した「飲めて殖やせる 究極のワイン投資」。