資産デザイン研究所代表の内藤忍氏が、資産形成にまつわる悩みや質問に答える、新シリーズ。今回のテーマは「海外証券会社の口座開設」についてです。ーーー
海外証券口座:国内証券会社より有利?
Q(質問者):海外の証券会社に口座を開設すると、外国株式の手数料が国内証券会社に比べると安くなると聞きました。国内ネット証券を選ぶよりも、その方が有利でしょうか?
A(内藤):アメリカ、香港など、海外の株式を取引できる国内ネット証券は増えました。ただし、日本株に比べると手数料が高くなるケースもあり、外国株は海外の証券会社で買った方が安くなることはあります。
そもそも、証券取引は、自国にある証券会社を使うと、品揃えが豊富で取引コストは安くなる傾向があります。日本株なら日本のネット証券、米国株ならアメリカの証券会社、香港株なら香港の証券会社がもっとも安いということです。これは株に限らず、投資信託など他の金融商品にも当てはまることです。
ところが、コストばかりに気を取られていると、大切な点を見逃してしまいます。
ひとつは、トラブル発生時の対応です。金融商品の取引においては、想定外のリスクが生じることがあります。例えば、取引している証券会社が営業を停止してしまったり、パスワードを忘れて口座がロックされる、サービス変更に伴い取引がしにくくなる、地政学リスクが顕在化して証券サイトにアクセスできなくなる…思わぬトラブルが突然降りかかる可能性はゼロでありません。そういった時に、自分自身で問題を解決できるかどうか、事前に判断した上で海外の金融機関を利用するようにすることです。
証券会社に限らず、海外の銀行も同じです。香港の銀行に口座を開いたもののネットでの使い方がよくわからず、結局はロックされ、そのまま放置されているなんて話は珍しくありません。そうなると、預けた資産を動かすことができず、にっちもさっちもいかなくなります。
あるいは、口座からの送金をメールで依頼したら、コールセンターへ連絡するように指示があったのですが、時差の関係で夜中に電話しなければならず、誰にも頼めないので困っているというケースも…。現地の言葉に堪能であればまだマシですが、コミュニケーションが取れないとなると、ますます困り果ててしまうことでしょう。
そもそも、海外の金融機関に口座を持つということは、自分自身の資産を国内から外国に移すことを意味します。「ネットでつかながっているから大丈夫」という声もあるでしょうが、国内金融機関と勝手が違うことが多い点は留意する必要があるでしょう。
リスク管理の観点からも、どの国のどの口座を使うかは、慎重に考えることです。わずか数百円のコストのために何日も時間を費やし、精神的なストレスがかかるのも、どう考えても「有利」とはいえません。海外口座の安易な開設は、結局コスト高になるケースもあることを知っておきましょう。