ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

【7】ラップ口座:お任せでプロが運用。利用すべき?

資産デザイン研究所代表の内藤忍氏が、資産形成にまつわる悩みや質問に答える、新シリーズ。今回のテーマは、資産形成のプロに運用を任せる「ラップ口座」についてです。ーーー

ラップ口座:お任せでプロが運用。利用すべき?

Q(質問者):証券会社や信託銀行の「ラップ口座」に興味を持っています。資産形成のプロに運用を任せられるので、安心かつ魅力的です。内藤さんは、どう思いますか?

エンリッチ naito q&a 7

A(内藤氏):まずは、ラップ口座についておさらいしましょう。これは、証券会社や信託銀行が投資家から資金を預かり「投資一任契約」を結び、投資判断から売買、コンサルなど、運用から管理までを一任するサービスのことです。「ラップ(wrap)」には「包む」という意味があり、運用に関する様々なサービスを「包括的」に提供することから、こういった名称になりました。富裕層からは人気があるようです。

日本投資顧問業協会によると、ラップ口座の資産残高は2017年6月末時点で6兆9272億円に達したとのこと。同年3月末に比べて約5%増で、過去最高を更新しました。6月末の契約件数も約59万件と過去最高を更新しています。

例えば、ある金融機関では次のようなサービスを提供しています。

まず、投資家の考えに基づく資産配分を提案するため、いくつかの質問に回答し、複数のパターンの資産配分から最適なアセットアロケーションを選択。次いで資産配分の調整や見直しを行い、定期的に運用成果を報告してもらえるようです。

ラップ口座はお任せで資産形成を任せられますから、投資家の手間はかかりません。専門家がアセットアロケーションや個別銘柄を選ぶので、投資の知識がない人が自分自身で運用することに比べると、洗練された投資手法で運用できるといった魅力もあるでしょう。便利なサービスであることは否定しません。ただし、知っておくべきことは、運用にかかるトータルのコストです。

ラップ口座では多くの場合、投資信託を使って顧客の運用をしますから、ラップ口座自体の管理コストに、それぞれの投資信託にかかる信託報酬もコストとしてプラスされます。

組み入れ商品によって変わりますから、厳密にコスト計算するのはかなり複雑ですが、大まかなコストとしては、ラップ口座自体のコスト(年間2%前後)に加え、投資信託の信託報酬(年間1%~1.5%)がかかってしまうということです。すなわち、トータルだと年間3%以上のコストになっていても不思議ではありません。仮に1億円の残高でコストが3%なら、年間300万円になります。手数料だけでこれだけですから、なかなかインパクトのある金額ではないでしょうか。これは、年間300万円以上の利益が出ないことに、パフォーマンスはマイナスになってしまうことも意味します。

一方、低コストの投資信託やETFを組み合わせれば、年間コスト1%以下でラップ口座と同じような運用成果を狙うことは可能です。つまり、年間1~2%のコスト削減は難しいことではありません。最近は、フィンテックの技術も高くなり、ロボアドバイザーを活用して資産配分を提案し、低コストで投資信託やETFを運用するサービスもあるようです。

もし、残高1億円で運用コストが1%節約できれば、年間100万円のメリットがあります。これが10年続けば、何と1000万円もの差になってくるのです。

ラップ口座を利用する前に、利便性の裏にあるコストについて理解してから、最終的に判断を下すべきというのが、私の意見です。

内藤 忍 (ないとう しのぶ)

株式会社資産デザイン研究所代表取締役社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、金融機関勤務を経て1999年にマネックス証券の創業に参画。同社は、東証一部上場企業となる。その後、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役などを経て、現職。著作は40冊以上。2015年には銀座に「SHINOBY`S BAR 銀座」をオープン。無料のメールマガジン「資産デザイン研究所メール」は購読者が約47,000人という人気

連載コラム

内藤忍

Return Top