教養の一部、あるいは資産性の高さから、“鑑賞”から“所有する楽しみ”へとシフトしつつある「アート」。とりわけ、グローバルに流通する「現代アート」は注目のジャンルだ。とはいえ、「何から始めればいいかわからない…」という、悩める初心者は少なくない。本連載では、気鋭のアートディーラー/解説者として知られる三井一弘氏が、アートとの接し方を詳しく易しく解説する。ーーー
ミツイ・ファイン・アーツ代表の三井一弘と申します。今回から、エンリッチで現代アートを紐解くコラムを連載する機会をいただきました。どうぞよろしくお願い致します。
私は現代美術アーティストとして活動をした後、1999年、世界的な権威を誇る画廊「ウィルデンスタイン(NY)東京店」に入社、アートディーラーに転身し、古典から現代アートまでを扱ってきました。2016年には独立し、現在はギャラリーも契約作家を持たない独立系のアートディーラーや解説者として活動しています。本連載でも、これまで培った知識や実績を活かし、皆さんのお役に立つ情報を発信していく次第です。
起業家や経営者が多いエンリッチの読者にとって、アートは身近な存在だと思います。オフィスや自宅を彩るのに絵画をはじめとする美術品は最適ですし、何よりも気に入ったアートを所有する満足感、癒しも得られるでしょう。歴史や文化と深く関係するので、学ぶことで教養も磨かれ、資産性の高さから関心を持つ方も多いと聞きます。
とりわけ、グローバルに流通し、世界中のコレクターから注目される現代アートは注目の分野です。日本人であれば草間彌生が有名で、彼女の作品は億単位の価格がします。現代アートにはそれ以上、数百億円もの作品もあれば、数十万円と手軽に購入できる作品も。
一方で、現代アートの表現方法は多岐に渡り、絵画や彫刻、フォト、インスタレーション、ビデオアートなど挙げればきりがなく、こと初心者にとっては、何から勉強すれば、手を付ければいいかわからないようです。当コラムでは、そういった悩めるアート初心者に対して、学びや実践のきっかけとなる有益な情報を発信していきたいと思います。一般的にアートといえば「鑑賞」が目的の人も多いでしょうが、「手にする」観点で接することでより目を養えますし、面白さも倍増します。
現代アートを理解するには
美術の歴史に触れるのが近道
グローバルに活躍する作家がいて、様々な作品が発表される現代アートの世界。混沌としていて、一見すると複雑に映ります。ただし「アートの歴史」を知っておくと、理解は早まります。というのも、題材に過去の作品のエッセンスが用いられることがあるからです。
現代アートのトレンドは「コンセプチュアル」で、生や死、経済や国の体制といった事象に対する比喩や批判などが含まれ、まさに「コンセプト」がベース。そこに芸術性や共感性が加わることで世界中の人々に受け入れられ価値を高めるわけですが、要素として大家の作品を取り入れることも、ままあります。よって、歴史の流れを把握すると、作家の意図や狙い、価値を理解しやすくなるということです。また、アートの歴史に通じると、なぜ現代アートにたどり着いたかもわかります。
ところが、アートの世界は幅広く奥深いもの。いざ勉強を始め、作家名や「〇〇派」は理解できても、結局は点と点でしか捉えていないので、結果としてよくわからないで終わってしまうことも…。そこで今回は、アートの歴史を一つの流れにまとめ美術史の大河を覚えていただこうと思います。
では、アートの流れは、どのように現在に至るのでしょうか。ポイントは「3つの時代」で考えることです。具体的には「古典を作る時代」「古典を美術アカデミーとしての権威にする時代」「権威を解体する時代」に分類します。それぞれについて解説していきましょう。