F1カーのエンジンに該当する、この時計の心臓部を見てみよう。手巻トゥールビヨン（重力補正装置付きウオッチ）ムーブメントのブリッジと地板は、グレード5のチタンを加工。スイスの名門時計ブランドのオーデマ・ピゲと、ルノー・エ・パピ社とで共同デザインされたこのムーブメントは、505個の部品と41石で構成され、同じ軸にトゥールビヨンとバレルを並べることができるオリジナルのデュオプラン構造で極めてコンパクト。目がくらむようなブリッジが気品を添え、3Hzで振動するトゥールビヨンケージとが目を惹く。PVD加工、マイクロブラスト仕上げ、サテン仕上げの表面加工に加え、手作業のサーキュラー仕上げ、面取り加工、ブラックポリッシング、穴内周の面取りなど、ムーブメントの美しさは特筆もの。

69時間のパワーリザーブ表示は、差動遊星機構から動力を得るゲージという新たなフォルムで4時位置に示される。たった1つのバレル（動力源）によるこの画期的なパワーリザーブは、スイスの時計の聖地ジュラ地方に拠点を置くメゾンによる性能への探求の賜物。チベットのマニ車のような刻印入りのグレード5チタン製ローラーを3つ回転させ、ランダムな言葉を作り出す機構、リシャール・ミルの最新コンプリケーション「オラクル」の快感を思う存分に堪能したい。10時位置にあるプッシュボタンを押すことで思い通りに作動でき、その欲望をずばり表現できる。これらの表示を読みやすくするために、時計歯車装置から針を切り離せる機構がムーブメント技師により開発された。8時位置のプッシュボタン操作により、針は姿を消してローラーが見えるようになり、手を離すと、針は自動的に元の位置に戻る。

また、3部分から成るグレード5チタン製大型ケース(50mmx42.7mmx16.5mm)は、リシャール・ミル他作品と同様に、人間工学に基づいて設計され装着感にすぐれる。チタン製スプラインネジ20個で組み立てられており、50mの防水性能を誇る。

時計製造史と時計職人たちの創造性へのオマージュであるリシャール・ミル「RM 69エロティック」。30本限定。日本をはじめ、世界のリシャール・ミル ブティック24店舗でのみでデリバリーされる。

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TEXT: 松田 朗／Akira Matasuda
時計ジャーナリスト
Pavone、Begin、時Begin、VOCE、FRaU、POPEYE、DIMEといった富裕層向けライフスタイル誌や専門誌、女性誌などにかかわる。各国大使館での文化イベント、『松本零士の宇宙観とクロノグラフ展』なども手掛ける(株)フォーシスターズ代表取締役。東京ニュース通信社特派記者。