ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

70周年 VS 80周年 フェラーリの歴史はトヨタより短いのに

この1950~60年代のフェラーリVSマセラティの対比だが、ここから現在の日本が置かれている苦境と同じようなものを感じないだろうか?少しでも良い物を作るためにいくらでも残業し、コンペティターが少し安く売り出したら、すぐに対抗してさらにディスカウントする・・・。そんな事業を展開していくと従業員は疲弊していくし、給与も上げることは出来ない。細かいところにしか目が行かないから、そもそもその業界自体が様変わりし、その会社自体が不要な存在になり得るという大枠から見た危機に経営者は気づいていない・・・。

エンツォ・フェラーリは細かい拘りがなかったが故、大胆な戦略を取ることができたのかもしれないし、何よりも物事をシンプルに捕らえることができるという才能があったのだろう。富裕層はモノではなくコトに究極的な関心を持つということも彼は理解していた。ヨーロッパと日本を行ったり来たりすることの多い私だが、そこで何時も思うのは、ヨーロッパ人の持つ“やり過ぎることはカッコよくない”という美学の存在だ。あまり適当でも、困るがほどよく気が抜けているのも悪くないと最近思う。

さて、少しハナシは逸れたが、エンツォ・フェラーリは細かいことに拘らず、自分の自伝を書き、自分のストーリーをブランド確立の道具とした。だから、皆がフェラーリ=エンツォと考えるようになった。そのDNAは現在に至るまで最大限に活かされ、継承されている。

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FXプロト=エンツォ・フェラーリ

2002年には創業55周年を記念してスペチアーレを発表したが、その名前は“エンツォ・フェラーリ”。創業者のフルネームをモデル名にしてしまうという発想は他のメーカーにはあるまい。

当連載でも前に書いたが、昨年はフェラーリ創業70周年という大イベントを世界中で開催した。この手の記念イベントはブランドの正統性を皆にアピールする絶好の機会でもある。だから、フェラーリのマーケティングのスタッフは、いつも“きりの良い数字”を探している。昨年は創立70周年と同時にF40の30周年もアピールされた。

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私も1958年製フェラーリ335スポーツというコンペティションモデルの記事コピーに“60年目の凱旋”と先ほど仕上げた記事に書いたばかりだ。

フェラーリが創立70周年を大きく謳っているのを見ると、私たちは“さすが歴史が違う”なんて思ってしまうのだが、実はフェラーリなどより日産やトヨタの方がよっぽど歴史が長い。日産は1929年であり、トヨタは1937年創業である。要はブランドのヒストリーをヘリテージとしてアピールするか、しないか、の違いなのだ。フェラーリはたいして長い歴史も持っている訳ではないのに、波乱に富んだメーカーとしてのヒストリーが世界中で語られ、ブランドをアピールする大きな手段となっている。トヨタが昨年創立80周年であったことを知っている人は世界中でいったいどの位いるのだろうか。


越湖 信一(えっこ しんいち)
EKKO PROJECT代表

イタリアに幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンタメビジネスに関わりながら、ジャーナリスト、マセラティクラブオブジャパン代表として自動車業界に関わる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリストとして活動する他、クラシックカー鑑定のイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に「Maserati Complete Guide」など。


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▼越湖信一著
 
フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング
 
KADOKAWA/角川マガジンズ 2,484円
 
現代の日本のものづくりには、長期的に見て自分達のブランド価値を下げたり、本来苦手なコモディティビジネスに自らを落とし込む悪い癖がある。クルマに興味の無い人にこそ、是非この本を読んでもらいたい。機能的に理に適っていないスーパーカーにこそ、人間が無駄なものを欲しがる本質のヒントがある。(カーデザイナー 奥山清行)

エンリッチ編集部

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