クラシコ・イタリアのファンで、タイ・ユア・タイの名を知らない者はいない。もともとはイタリア最高の洒落者と言われたフランコ・ミヌッチ氏が、1984年にフィレンツェに開いた洋品店、セレクトショップである。隅々までミヌッチ氏の美意識が行き渡り、数多くのブランドに別注をかけた、素晴らしいコレクションを揃えていた。クオリティに関しては一点の妥協もなく、贅を尽くした最高級の品々が並んでいた。その全盛期には、ミヌッチ氏が提案する着こなしを見ようと、世界中からバイヤーやジャーナリストが訪れ、その小さなショーウィンドウは、「ピッティの羅針盤」とまで言われた。
その日本店が今回紹介するタイ・ユア・タイ 青山店である。本店に勝るとも劣らない品揃えを誇り、真の富裕層が足繁く通う店として知られている。クオリティの高さ、そして値段の高さは群を抜く。天井知らずのオーダーメイドや専門店を除けば、ここは数あるセレクトショップの中でも、日本一高額な商品を扱っている店と言っていい。
富裕層はどのような装いを好むのか、ショッピングのやり方はどうか、そしてそういった人々におすすめのこの秋のスタイルはどういったものか、徹底取材してきた。
今回の Concierge
池田憲太郎さん(タイ・ユア・タイ国内営業部 マネージャー)
多くのブランドにて、営業、MD、生産管理などを経験した後、現在では、超高級セレクトショップ、タイ・ユア・タイにて営業のトップを務める。ファッションに対する豊富な造詣持つと同時に、富裕層の行動・心理を知り尽くしており、どんなクエスチョンにも、的確なアンサーを返してくれる。
Q
「富裕層ならではのスタイルって、あるのでしょうか?」
A
「基本的には地味、そしてクオリティで差をつける着こなしです」
——こんにちは。タイ・ユア・タイといえば、私の中ではすごく高級なお店というイメージが強く、実際に私の周りにいる本当にお金持ちの人たちも、その多くがこちらのファンです。扱っていらっしゃる商品の価格は、どのくらいなのでしょうか?
「はい、お陰さまで、いわゆる富裕層と言われる方々にご愛顧を頂いております。商品の価格は、スーツで平均して75万円くらいでしょうか。当店の特徴として、ジャケットのほうがスーツと比べて少々単価が高いことが挙げられます。平均して75〜80万円くらいです。ジャケットのほうがパンツがない分、より贅沢な素材が使えるからです。贅沢素材をパンツに使うと、すぐに擦り切れてしまいますからね。あとはタイで3万円、シャツで7万円程度です」
——スーツの平均価格が75万円とは驚きです。お客様はどういった方が多いのでしょうか?
「やはり自営業、企業オーナーの方が多いですね。いろいろなファッションを試されて来た方が多くて、皆さん洋服のことをよく知っていらっしゃいます。年齢的には40代が中心で、それより上の方が多いです」
——接客では、どういったことに気をつけていらっしゃいますか?
「服を売りつけるという意識は全くないですね。それぞれの方のライフスタイルを理解してあげて、ご相談に乗って差し上げるという感じでしょうか。ですから、もし当店によい品物がない場合は、他の店へお客様をお連れしたりすることもよくあります」
——富裕層の方のショッピングとは、どういったものですか?
「当店のお客様は、ほとんどの方が1週間に何度もいらっしゃるのです。毎日いらっしゃる方もいます。そしてコーヒーを飲みながら、いろいろな話をされていきます。クルマの話、ワインの話、そして女の話。滞在時間は平均して1時間程度でしょうか。中には3時間くらいいらっしゃる方もいますよ。そして何も買わずに帰る(笑)。しかしそれでもいいのです。昔のメンズショップが持っていた雰囲気を、味わって頂きたいのです。ですから通信販売はやっていません。われわれはそのやり方、売り方自体もクラシックなのです」
——では、この秋おすすめのビジネススタイルを教えて下さい。
「われわれのスタイルは一言で言うと“控えめ”ということです。社会的ポジションの高い方が多いですから、色やデザインは必然的にクラシックなものになります。今シーズンは、私が今着ているタイやシャツのように、遠目では地味ですが、近くに寄って見ると、折り柄やストライプが入っているというものが人気です。そして素材で贅沢をするのです。富裕層に人気のスーツ素材といえば、何と言ってもカシミアですね。カシミアがスタンダードと言ってもいいかも知れません。このスーツはカシミアにシルクを混ぜた素材で仕立てられています。キートンの総帥チロ・パオーネとタイ・ユア・タイのダブルネームで、世界中でウチにしかないラインです。あとはサスペンダーもおすすめのアイテムです。パンツのラインがキレイに出ますから」