スーツやジャケットのオーダーを体験したことがある方は多くても、シャツやパンツ単品をオーダーしている方は少ないだろう。しかし上着類と比べると、どちらのアイテムも、より人間の皮膚に近いので、体型に対してのさらに細い補正が必要だ。しかも決して人前では脱ぐことができないから、着心地の悪いものを選んでしまうと、一日中ストレスを強いられる。シャツとパンツこそ、オーダーメイドを選ぶべきなのだ。
そこで、今回は気鋭の“カミチェリア(シャツ職人)”と“パンタロナイオ(パンツ職人)”に、シャツとパンツのオーダーの魅力、生地の選び方、正しいオーダーのやり方を伺った。一度オーダーの着心地を知ってしまうと、もう既製品には戻れない。その奥深い世界を探索していこう。
今回の Concierge その1
山神正則さん(カミチェリア)
1976年、香川生まれ。表参道のストラスブルゴ ハウステイラーズ ラボにて、カミチェリアを務める。ファッション・デザイナー、および着物のデザイナーなどを経て、シャツ職人の道を志す。銀座VESTAにて、テーラードを勉強、その後ストラスブルゴにて、カミチェリアとしてデビュー。独自の方法で縫い上げられるシャツは、幅広いファンを持つ。
Q
「オーダーシャツの魅力は何ですか?」
A
「ストレスがないことです。一日中着ているものですからね・・・」
——オーダーシャツのアドバンテージは何でしょうか?
「もちろん好きな生地やデザインで作れるというのもありますが、これは当たり前です。オーダーシャツの最大の魅力は、やはり着心地のよさですね。体にぴったりと合っているシャツは、本当にストレスがないものです。一日中着ていなければいけないものだし、人前では決して脱げないものですから重要です。よく首に異物がくっついているような感じのシャツがありますが、悲劇ですね。私のシャツは首の座り加減とか角度とか、すべて合わせるので、そういったことがありません」
——その他に注意していらっしゃる点は?
「その人のスタイルに合わせて、ディテールを変えます。例えば、ネクタイのノットに合わせて、台襟の高さを変えますし、していらっしゃる時計に合わせて、カフの大きさを変えたり、カフスボタンの位置を変えたりもします。薄いドレスウォッチとパネライのように大きな時計では、何センチも違います。だから、プライベートな質問もさせていただきます。一枚一枚手で型紙を引いているので、どんなことでもできるのです」
Q
「オーダーならではのディテールはありますか?」
A
「私のシャツには背中のダーツがありません」
——オーダーならではのディテールは、どのようなものがありますか?
「時計については、カフスの上に巻く方もいらっしゃるので、カフスボタンが邪魔にならないよう、ホールを中心からズラすことがあります。私の場合、ボタンつけとネーム刺繍はハンド仕上げ、ボタンホールはオプションでハンドをお受けしています。それから肩付けは、上と下でステッチの間隔が違っています。肩に当たる上のほうは細かく、脇の下は粗めに縫います。それによって腕が動かしやすくなるのです」
——山神さんならではのディテールはありますか?
「私のシャツは、背ダーツがないのが特徴です。ダーツがあると、どうしても体へあたって、不快ですから。ダーツなしで体に沿わせるため、カッティングを工夫し、前身と後身の生地の差を利用して、自然とフィットするように設計しています。ダーツがないと、パンツにタックインした時も、ドレープがキレイに出るんですよ」