べっ甲のメガネフレームが売れている。
べっ甲といえば、日本人には昔から馴染みのある素材だ。なんと聖徳太子の宝物として日本へ伝来したという。べっ甲細工は、東京都の伝統工芸品にも指定されている。その希少さゆえ、非常に高価な素材である。しかし昨今、その需要は増している。
都内有数のべっ甲フレームの品揃えで知られる銀座・和光によると、「男女を問わず人気で、幅広い年齢層に支持されている。べっ甲らしい太いものから、一見するとべっ甲だとわからないスマートなものまで、デザインのバリエーションも大きく広がった」とのことだ。
そこで今回は、メガネ道楽の終着駅、べっ甲のメガネを特集する。他では決して得られない、べっ甲素材の魅力とおすすめのモデル、オーダー方法まで、第一人者に聞いてきた。
*2017年に好評いただいた回のアンコール掲載です
今回の Concierge
大澤健吾さん(大澤鼈甲 代表取締役社長)
東京都生まれ。昭和31年創業の老舗べっ甲店、大澤鼈甲の二代目社長。企画、製作までを担当し、べっ甲のすべてに精通している。また、オリジナルのメガネフレームは、べっ甲の可能性を追求し、数々の受賞歴を誇る。自社工房にて仕上げたべっ甲フレームは、まさに一生物のクオリティだ。
Q
「べっ甲の魅力とは、何ですか?」
A
「人間と同じ、有機質の素材であることです」
——素材としてのべっ甲の魅力とは、どんなところでしょうか?
「べっ甲は、ウミガメの甲羅を加工したものです。自然界にあるもので、爪などと同じ有機質です。ですからヒトの肌に馴染むのです。セルなどと比べると、肌に触れた時に、独特のしっとり感があります。人工の素材にはマネのできないところで、これがべっ甲の最大の魅力でしょう。また成形の保持力が高いので、フィッティングをきちんとしていれば、かけ心地がとてもよいのです。」
——日本では、ずいぶんと古くから愛用されていたようですね
「べっ甲素材は聖徳太子の時代からあるそうです。小野妹子が随よりもたらしたのが最初だったとか。べっ甲細工は正倉院の宝庫にも納められています。あの徳川家康はべっ甲のメガネをかけていました。現物が今でも残っています。独特の色味が、日本人の肌色によく似合うことが、古くから愛されて来た理由だと思います。」
Q
「べっ甲には、どんな種類がありますか?」
A
「明るい色のものほど高級品なのです。“白甲”は大変希少なものです」
——そもそもべっ甲とは、何が原料なのでしょう?
「タイマイというウミガメの一種です。その甲羅を原料としています。タイマイは南洋の海に生きるウミガメで、生息地の最北端は石垣島あたりです。大きさは50〜100cmくらい。口が鳥のクチバシのように尖っているところが特徴です。その甲羅は厚く、色がキレイで、他のウミガメでは得られないものです」
——べっ甲素材にもランクがあると聞きましたが。
「基本的には、濃い茶色いものほど安価で、白く透明になるにつれて高級になって行きます。これはウミガメの個体差によるものです。最高級の“白甲”は、大変希少価値の高いもので、価格もとても高価となります」
——メガネのタイプには、どんなものがありますか?
「まず“オール甲”と呼ばれる、全部べっ甲で出来たタイプがあります。当然最も高価です。すべてべっ甲で出来ているため、重心バランスがよく、かけ心地がいいといわれています。それからチタンや金などの金属と組み合わせたタイプがあります。こちらは、デザインの自由度が高く、メガネを薄く仕上げることができます」
Q
「デザインでこだわっているところは?」
A
「オリジナル・ブランドで数々の賞を頂きました」
——自社ブランドKUAIは、どんなコンセプトなのですか?
「KUAIとは、『魁=さきがけ』という意味です。今までにないべっ甲のフレームを作ろうというのがコンセプトです。2010年にチタンフレームの上にべっ甲を組み合わせたフレームを発表し、2011年、IOFT(国際メガネ展)のラグジュアリー部門にてグランプリを戴きました。また発展形であるKUAI Gでは、グッドデザイン賞を受賞させて頂きました」
——最新作はどんなものですか?
「昨年リリースしたKUAI Cというラインです。これは、べっ甲メガネにおいて更に軽さを追求したもので、テンプル部分がベータチタンで出来ています。これによって軽さとしなやかさを実現しました」
Q
「最近人気なのは、どんなタイプですか?」
A
「実は高いものほどよく売れているのです」
——さまざまなタイプのなかで、最近人気なのは、どんなタイプですか?
「実はオール甲のタイプ、KUAI Fのシリーズが人気なのです。不思議なことに最近では、高いものほどよく売れます。セルフレームのタイプのメガネが人気なことが、理由なのかもしれません。オール甲は非常にラグジュアリーな雰囲気を持っており、こういったものをお求めになる方は、こだわりのあるものをお使いになっていることが多いですね」
——お客様はどういった方が多いのですか?
「手作り品を愛し、こだわりを持った方が多いです。また、最高級の品をお求めになられる方は、リピーターが多いですね。お使いになっているうちにべっ甲のよさを感じて、次もべっ甲を、という方がとても多いです。」