Q
「ハンドソーンとは、何ですか?」
A
「すべてのウェルテッドは、もともとはハンドソーンだったのです」
——ところで先ほどハンドソーンウェルテッド製法という言葉が出て来ました。またギルドのオーダー靴の特徴は、すべてハンドソーンであるところと聞きましたが、これはどういうことですか?
「ハンドソーンとはその名のごとく、アッパー、中底、ウエルトという靴の主要部品を、曲がった針を使って手で縫い付ける製法のことです。昔の靴は皆こうやって作っていたのです」
——よく聞くグッドイヤーウェルテッド製法との違いは何ですか?
「19世紀末に発展した、機械縫いのウェルテッド製法です。特に20世紀前半に世界大戦があったことで、ハンドソーンのような堅牢な靴を、大量生産できないかという需要が生まれました。そこで注目されたのがグッドイヤー製法です。リブと呼ばれる列車のレールのような部品を中底へ貼付けて、機械で縫うことができるようにしたものです。ハンドソーン、グッドイヤーそれぞれの良さがあり、どちらが良いかと比較する対象ではありません」
——よくハンドソーンはグッドイヤーに比べて、柔らかいと言われますが・・
「これは一概には言えないですね。靴の“返り”というものは、さまざまな要素によって違ってくるものです。ただしハンドソーンは中底を厚くできるので、フットプリントの記憶や吸汗性等の機能が持続するという利点はあります。ソールに入っているコルクの量も少なくできます」
——コルクはたくさん入っている方がいいと思っていました。
「それは誤解です。靴底に入っているコルクが多過ぎると、長い間履いていると、中底が沈み込み過ぎるのです。それで足にフィットするというのは間違いで、いい靴は最初から足にフィットしているものです」
Q
「一番最初にオーダーする靴は、どんなものがいいのでしょうか?」
A
「遠慮しないで、履きつぶせる靴です」
——一番最初にオーダーするとなると、どんな靴がおすすめですか?
「せっかくビスポークするのだから、ビスポークらしい変わったデザインを、と考える方がいますが、これはどうでしょうか? それよりも遠慮しないで、どんどん履ける色やデザインを選ぶべきだと思います。なぜなら履き心地というものは、履く側もある程度勉強しないとわからないものだからです。ビスポークの靴を作るということは、自分の足を知るチャンスでもあります。例えば、いますごく気に入っていて、毎日のように履いている靴があるとすれば、それに似たようなものをオーダーで作ってみるというのも、いい方法だと思います」
Q
「いまのベストセラーはどんなモデルですか?」
A
「縫い目がないモデルが人気です」
——現在売れ筋のデザインを教えて下さい。
「実は今も昔も、一番売れるのは黒のストレートチップなのです。ギルドの場合、10人中4人は“黒スト”をお選びになります。でも某百貨店の方に聞いたら、これはパーセンテージとしては少ない方だそうです。普通は7割方、黒ストだそうです」
——トレンドとして人気なのは、どんなタイプですか?
「いまは縫い目が少ない方が人気です。いわゆるホールカット、シームレスと言われるタイプですね。1枚の革をうまくクセつけして、立体的なアッパーを作ります。テクニックとしては難しいのですが、見た目は実にスマートです」
Q
「サイジングの手順は、どうなりますか?」
A
「基本的に、裸足でやります」
——実際に靴をオーダーするとして、どのような流れになりますか?
「初めてのご来店の場合、まずどんな目的の靴が欲しいのか、ご予算はいくらくらいかを伺います。そしてどのラインがお客様に合っているのかを、アドバイス致します。必ずしも、すべてビスポークをおすすめするわけではありません」
——でも、せっかくなら、やはり自分だけのために作られた靴の履き心地が知りたいです・・
「その場合は具体的に作るモデルを決めてから、採寸に入ります。採寸には40分程度かかりますから、時間に余裕をもってお越し下さい。1回目ご来店=モデル選び・採寸、2回目=ラストシェルフィッティング、3回目=仮縫い、4回目=完成となります。採寸から仮縫いまでは、約2ヶ月、仮縫いから完成までは、約3ヶ月ほどかかります。」
——その他に採寸をする時の注意は?
「基本的に採寸は裸足でやります。足のツメは切ってきて頂けるといいですね。実は裸足で採寸するということをご存知なくて、靴を脱ぐのを躊躇なさる方がいます。しかし、お足と日々履いておられる靴との関係や、お足そのものの寸法を得ることはとても重要になります。『健康診断のおつもりで』とお伝えしたいです」