かつて帽子は、紳士の装いに欠かせないものとされていた。明治、大正、昭和の男たちにとって、手放せない存在であった。現代でもその価値は失われていない。うまく被れば、決定的にお洒落になれるアイテムだ。しかし、かぶり慣れていないとどうにも気後れしてしまい、なかなか手を出す気になれないのも事実である。
そこで今回は、さまざまなブランドを扱う帽子のセレクトショップ「時谷堂百貨」の代表、川近充さんをコンシェルジュとしてお迎えし、初めて帽子を手に取る人に向けた、基本的な知識をお教えいただいた。高級品の見分け方や、似合う帽子の選び方、そして手入れ法までを網羅した。
ワードローブに帽子を取り入れて、新しい自分を演出していただきたい。
今回の Concierge
川近充さん 時谷堂百貨 代表取締役
1975年、アムステルダム生まれ。 幼少期はオランダにて過ごし、15歳のときに日本へ帰国。大学では航空宇宙工学を専攻し、大学院2年のときに起業。インターネット関連のビジネスを経て、オンラインにおける高級紳士帽専門セレクトショップ「時谷堂百貨」をオープン。現在世界17ブランドの帽子を扱う。
*ハット3万円(パニッツァ/時谷堂百貨)
Q
「そもそも帽子って、いまでも人気があるのですか?」
A
「日本における帽子の売上げは、過去20年間変わっていません。そして高級帽子の顧客の大半は50歳代以上です。つまり年をとると、いい帽子が被りたくなるのです」
——洋服や靴のセレクトショップはたくさんありますが、帽子のセレクトショップというのは、意外にないですよね。しかもオンライン専門というのは珍しい。どうしてこのビジネスを始めたのですか?
「私はもともと理系で、インターネット通販のサポートのような仕事を、10年以上にわたってしていました。ところが5年ほど前に、旅行でエクアドル領ガラパゴス諸島へ出かけて、その時ガイドをしてくれた人が、たまたまオメロ オルテガというエクアドルの有名ハットブランドの創業者の孫と親友だったのです。実はエクアドルは、パナマハットの90%以上を供給する一大生産地なのです。開発途上国ながら、一つ700USドル以上もするハットが売られていることを目の当たりにして、『すごいな』と思いました。そして、日本で紹介したいと思ったのです」
——今ではずいぶんとたくさんのブランドを扱われていますよね?
「スタート時はオメロ オルテガだけだったのですが、3年目には顧客数が1,000人ほどになり、お客様からも『秋冬の帽子はないの?』というお問い合わせを多く頂くようになって、ブランドを増やしました。現在では世界17ブランドを扱っています」
——お店のウリはなんですか?
「製造元より直接仕入れるということにこだわっていて、品質に対して価格がリーズナブルなことですね。実は世界には、日本では知られていない帽子のブランドがたくさんあります。名前は知られていなくても、クオリティのいいものが数多くあるのです」
——お客様はどういう人が多いのですか?
「ネット通販なので、若い方が多いと思われがちですが、実は8割以上が50歳代以上の方です。中には80歳代の方もいらっしゃいます。やはり高価なもの中心なので、若い人は手を出しづらいのかもしれません。中には何百も帽子を持っていらっしゃるコレクタ—の方もいらっしゃいますね。」
——日本における、現在の帽子市場はどうでしょうか?
「婦人用や子供用を含めた日本の帽子市場は、約1千億だと言われています。紳士用はそのうち180億くらいで、これは過去20年くらいに亘って、ずっと変わっていません。ということは、皆さんある程度のお年になると、高い帽子を被り始めるということでもあります」
Q
「帽子にはどういう種類があるのでしょう?」
A
「ハット類は大別して、“フェドラ”と“トリルビー”に分けられます」
——そもそも帽子にはどんな種類があるのでしょうか?
「まず大きくわけて、ハットとキャップがあります。ハットはつばがぐるりと一周しているもので、つばが中くらいから長めの“フェドラ”と、つばが短めの“トリルビー”に分けられます。その他に、クラウン(頭の部分)の形が違う“ポークパイ”もあります」
——ハットには、もっといろいろな種類がありますよね?
「フォーマル用としては、“ボーラー”、“トップハット”、“ホンブルグ”など。あとは“ウエスタン”やその一部である“テンガロン”、また“チロリアン”もハットの仲間ですね」
——キャップはどうですか?
「キャップ系は、“ハンチング”、“キャスケット”、“ベレー”、“ベースボール・キャップ”(野球帽)、“飛行帽”などがあります。弊社はキャップ類も扱っていますが、中心となるのは高級ハットです」