Q
「よいソフト帽はどうやって見分ければいいですか?」
A
「素材はビーバーが一番。そしてコシがあることが重要です」
——高級なソフト帽は、何が違いますか?
「ソフト帽の素材には、ウール、ラビットなどが使われますが、最高級品はビーバーです。ソフト帽の条件は、ソフトなフェルトであること。クラウンの窪みやつばの角度などを、自分の好きな形に自由に変えられるものがいいのです。よいソフト帽は帽体自体に、自由に作った形をある程度キープできるだけのコシが備わっています。コシはビーバーやラビットファーを、時間を掛けて、しっかり縮絨(しゅくじゅう)されたものにしか備わらない特性です」
——縮絨というのはなんですか?
「素材である獣毛を、水で湿らせて熱と圧力を加え、長さと幅を縮めて組織を密にすることです。ドラム缶のような機械に入れて回すなど、いろいろなやり方があります。よいソフト帽かどうかを見分けるときは、あまり厚手でなく、縮絨の密度が高そうなファーフェルトであるかどうかに注意するといいと思います。ウールフェルト製や、形状記憶を謳っているもの、強すぎる糊入れをされたものは、本来の意味でのソフト帽ではありません」
Q
「それでは、よいパナマ帽はどうやって見分けられますか?」
A
「簡単です。細ければ細かいほどいいのです」
——パナマ帽の高級品はどこで見分けられますか?
「これはソフト帽より簡単です。編み目が細かければ細かいほど、高級品なのです。素材となるトキヤ草を細かく割いて、編み込んでいくのですが、すべて職人の手作業です。実は世界の帽体の9割はエクアドル製で、なかでもモンテクリスティという町で作られるものが高級品です。最高級のパナマ帽は300万円もしますが、これは日本でいうところの人間国宝のような職人によって手がけられ、1つ編むのに半年ほどかかります」
——帽体とはなんですか?
「帽子として成型する前の、丸い、なんとなく帽子の形をした素材を、帽体と呼びます。これを各メーカーがそれぞれのデザインに応じて、最終的な形に整えるのです」
Q
「おすすめのブランドを教えてください」
A
「世界には日本で知られていない帽子のブランドがたくさんあります」
——おすすめのブランドを幾つか教えてください。
「ソフト帽では、まずチェコの“トナック”です。実はチェコは、世界的なラビットファーの名産地なのです。トナックは1799年創業の老舗で、チェコで最も有名な帽子ブランドです。“アンテロープ仕上げ”と呼ばれる薄くてコシがある帽体が特徴です」
——ソフト帽で他におすすめはありますか?
「オーストリアの“ツァップ”もいいですね。1893年創業の老舗で、オーストリア屈指の帽子メーカーです。トナック同様、日本では取り扱いがほとんどありません。世界には100年を超える歴史を持つ老舗がたくさんありますが、日本ではまだまだ知られていないのです。ここはビーバーのクオリティが特にいいですね。ハプスブルク家公認の“ハプスブルク・コレクション”が特におすすめです。昨年われわれの店で、一番売れたビーバーの帽子は、このシリーズでした」
——それではパナマ帽でおすすめは?
「一番はわれわれのビジネスのスタートとなったエクアドルの“オメロ オルテガ”です。クオリティとプライスのバランスが最高です。エクアドルから直接仕入れており、またエクアドルで最終成型までやっているので、リーズナブルな価格が実現できました。エクアドル産の帽体でも、例えば英国やイタリアなどで加工すると、非常に高価となってしまいます」
——なるほど。他にもエクアドルでおすすめはありますか?
「“ベルナール”もいいですね。実はエクアドルにおける帽子メーカーはファミリー経営であることが多く、オメロ オルテガとベルナールは有力なファミリーの2社です。両者のキャラクターは違っていて、例えばオメロ オルテガの高級帽が真っ白であるのに対して、ベルナールはあまり漂白せず生成り色をしています。ブリーチしすぎると素材を痛めてしまうという思想があるようですね。それから前者が素材の特性を活かすため柔らかく仕上げてあるのに対して、後者は型崩れを防ぐためしっかり糊付けされており硬めです」
——なるほど、同じパナマ帽でも、ブランドによってぜんぜん違うのですね。他のタイプの帽子では、おすすめのブランドはありますか?
「ベレー帽では“エロセギ”がおすすめです。バスク・ベレーのブランドです。フランスとスペインにまたがるバスク地方にて、伝統的なベレー帽を作っている会社は、現在2つしか残っていません。フランス側にあるのが“ローレール”。そしてスペイン側にあるのがエロセギです。両者の品質はほぼ同じですが、エロセギの方がやや安い。創業は1858年で、スペイン最古にして最後のベレー・ブランドです」