Q
「いいカバンの見分け方を教えて下さい」
A
「元カバン職人の私がお教えしましょう」
——青戸さんは元カバン職人だったんですよね? その経験からよいカバンの見分け方を教えて下さい。
「自ら職人として、カバン作りを3年間学びました。親方にはよく『使う人を考えた作りになっているか。丁寧な作業をおこなっているか。作る工程を考えろ』といわれました。」
——どういうことでしょう?
「全体を見るとどのような工程に手間をかけて作られたか。考えて作られているか。がわかります。例えば、ここにあるカバンのハンドルはすべて一番外側に取り付けられていますよね。これを内側の層に取り付けると外側がベロンを垂れてしまい、型崩れしやすくなるのです。使う人のことを考え、丁寧な作業をしている特徴のひとつでもあります。つまり良い鞄作りをしているといえます。」
——なるほど。ステッチなどはいかがですか?
「このカバンをよく見ると、力のかかる部分にもうひとつステッチが入れてありますよね。これは補強のためなのですが、こうするとひと手間増えるのです。結局カバン作りも、一日何個のノルマを追う仕事ですから、手間は少ないほうが効率的です。逆にいえば、こういった手間をかけているものはいい品なのです」
——他にも見分けるポイントはありますか?
「高級品の代表格、フェリージの12/39/DSを例にとってご説明しましょう。ボディ部分にはイタリア製のナイロンが使われ、レザー部分にはトスカーナで古くから伝わる伝統製法によって職人がつくったバケッタレザーが使用されています」
——一見すると、ごくシンプルなブリーフケースに見えますが・・
「見て下さい。ハンドルを直接ナイロンに取り付けず、デザインも絡めて上部にレザーパーツを渡して、そこにハンドルを取り付けています。こうしたほうが丈夫なのです。ハンドル取り付け部には、リベットを打って補強してあります。また外側を一周するリムのステッチは、底面から始まって底面で終わり、その上からレザーパーツを当ててあります。さらにそのパーツをよく見ると、革と革との繋ぎ目を渡すようにしてステッチが入れられています。すべてにおいて、実に丁寧な仕事をしていますね」
——いやぁ、プロの人はこういうところを見ているんですね。知りませんでした・・
「ファスナーもポイントですよ。ご存知のように世界のファスナーの多くは、日本のYKKが使用されています。しかし同じYKKのファスナーでも、いろいろなグレードがあるのです。ところでファスナーに方向があるのはご存知ですか?」
——え、知りません。ファスナーって、双方向に使えるのではないのですか?
「ファスナーの並んでいる歯の部分を“虫”と呼びます。この虫をよく見て下さい。片方に出っ張りがありますよね? これとスライダーの広がっている方向を合わせるのが正しいのです。普通のファスナーなら問題ないのですが、ダブルジップだと勝手が違ってきます。ひとつのスライダーを逆向きに取り付けなければならないからです。それぞれのスライダーを、引っ張ってみて下さい。抵抗感が違うでしょう?」
——ああ、本当ですね! ダブルジップの製品はたくさん持っていますが、そんなこと考えてもみませんでした。でも言われてみると、確かにぜんぜん違います。
「そこで虫の形を同じにして、双方向に対応しているものがあるのです。これだとダブルジップでも開け閉めがスムースになります。しかしファスナーのコストは通常品よりずっと高額になってきます。このタイプのファスナーが使われていれば、間違いなく高級品ですね」
——なるほど、カバンの世界は実に深いですね・・今回は、恐れ入りました。
*2019年9月3日掲載
伊勢丹新宿店 メンズ館
〒160-0022 東京都新宿区新宿3-14-1
TEL:03-3352-1111
営業時間:10:00〜20:00
www.isetan.mistore.jp/shinjuku.html
www.imn.jp
※価格はすべて税抜。
撮影=小澤達也