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ホンダが意図する最上級セダンとは

どうやらここで介入してくるのが2つのモーターらしい。左右のタイヤの回転差でクルマがコーナーを曲がろうとする。もちろん、そのときの向きはドライバーが切ったステアリングの方向。イメージ的にはクルマの各部に小人がいて、全員でその方向へ進めるために一生懸命働いているといった感覚だ。

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左折時。左の後輪が回転差を作りコーナーリングをサポート

だが、これがおせっかいとなる。特にある程度運転スキルのある者たちにとって邪魔なのだ。いい感じに横Gを出しながら曲がろうとすると、Gを減らすためクルマはラインを変え、その結果ステアリングを修正しなければならなくなる。これを不自然といわずなんと言おうか。モータージャーナリスト、自動車専門誌編集者の顔を曇らせたのはまさにこの現象である。

それじゃ誰もが違和感を得るのかと思えばそうではない。こんな意見も耳にした。「このクルマ、運転しやすいね」と。

言葉を発したのはクルマに不慣れな方だ。普段から運転するものの、道具としてクルマと接している。なので、ステアリングもアクセルもブレーキもその人にとってスイッチでしかない。切るかもどす、踏むか離すといった操作を行う。そんな方のレジェンドに対するコメントが、「このクルマ、運転しやすいね」だった。

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つまり、これはクルマが勝手にいろいろしてくれるということだ。大げさに言えば、ざっくりステアリングを切って角を曲がろうとしてもクルマがちゃんと曲げてくれる。小人たちが働くのだ。なるほど、これもまた「意のままの走り」の解釈のひとつなのかもしれない。

それじゃ腕に自信のあるドライバーはレジェンドを楽しめないのか。じつは今回長期の試乗でそれもわかった。

じつはこのモーターの制御は学習機能が付いていて、だんだんと介入のタイミングや仕方をドライバーに合わせるのである。なので、走り出しは不自然さを感じるものの、しばらく走っているとそれは見事に打ち消される。一発目の印象が強く、「なんか変?」と思ってしまうが、さらにその先にはナチュラルさが戻っていたのだ。

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F1参戦から50年のホンダ

この2つのモーターを使ったシステムをホンダはSH-AWDと呼ぶ。すでに先代から話題となっているシステムで、自動車専門誌の中では違和感を唱えるものは多かった。その意味、今回もそうなってしまったが、この技術のさらに向こう側にはホンダが目指すものが垣間みられた気がする。

F1参戦から50年以上の軌跡を残す唯一の国産メーカー。彼らが意図するスポーティな走りはなかなか奥が深そうだ。

九島辰也

九島 辰也 (くしまたつや)

モータージャーナリスト兼コラムニスト/ 日本カーオブザイヤー選考委員。「Car EX(世界文化社)」「アメリカンSUV/ヨーロピアンSUV&WAGON(エイ出版社)」編集長「LEON(主婦と生活社)」副編集長を経て、現在はモータージャーナリスト活動を中心に様々なジャンルで活躍。2015年からアリタリア航空機内誌日本語版編集長、2016年から「MADURO(RR)」総編集長もつとめる。

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