1929年から続くクルマ好きによるクルマ好きのためのエンターテイメント
世の中にはクルマ好きといっても様々なタイプがある。走らせるのが楽しい人もいれば、写真に撮るのに情熱を注ぐ人もいる。対象物も新車から旧車、さらにはカスタムカーとじつにバラエティに富んでいる。“鉄ちゃん”的に言えば、“乗り鉄”や“撮り鉄”といったところだろう。自動車業界にそういった言葉がないのが不思議なくらいだ。
イタリアにはコンクールデレガンス・ヴィラ・デステなるものがある。これもまたクルマ好きによるクルマ好きのためのエンターテイメントに他ならない。1929年にスタートしたそれはまさに優雅なデザインを競うショーとして、いまも毎年行われている。先日そんな場に足を踏み入れた。ご存知のように旧車愛に満ちあふれたイベントだが、そこはやはり本場。スケールもウンチクの深さもハンパではない。
場所はコモ湖。コモ湖はミラノ北部に位置するイタリアで3番目に大きな湖で、古くから避暑地として栄えてきた。ミラノからほど近いこともあり、イタリア貴族や芸術家がヴィラを構えたことで知られる。近年はハリウッドスターも増えてきて、 “リトルハリウッド”なんて呼ばれるらしい。
コモ湖の魅力はその美しい景観にある。緑深い山々と紺碧の湖面、それと赤や黄の色とりどりのヴィラが点在する情景はまるで絵本の中の世界。また、アルプスを背にしていることもあり、きれいな水が豊富にあるのも美点。トリノ、ミラノ、ボローニャといった北イタリアが工業地帯として繁栄してきたのもそんな理由からかもしれない。
コンクールの1日目はグランドホテル・ヴィラ・デステ、2日目はヴィラ・エルバが会場となる。ヴィラ・デステは関係者とメディアのみだがエルバは一般公開の場とされる。
ヴィラ・デステは入場制限されるため、かなり優雅に行われるのがキモ。そもそもヴィラの中庭だからスペースは限られる。それでもけっこうな数の人々が招待されるのだけれど、ゴチャゴチャしないのはさすがだ。イタリア式庭園をのんびり歩くこともできる。出品者は世界中のセレブリティ。その立ち振る舞いもまた優雅である。
エントリーされるクルマは超がつくほどのレアものばかり。かつてル・マン24時間レースで戦ったマシンやカーショーのためにつくられたたった一台のスタディモデル、さらにはどこかの富豪がオーダーした特別仕様車が顔を連ねる。ブランドで言うと、ロールスロイス、フェラーリ、ジャガー、アルファロメオ、メルセデス・ベンツ、アバルト、あたり。また、今年はマセラティ100周年ということで、例年よりも多くそれが飾られた。
クルマの評価はまずはその存在価値にある。「あのときのクルマがいまも残っていたんだ……」といったところに高い評価が下る。そしてそのコンディション。エクステリアとインテリアの状態にチェックが入る。機関も同じ。正常にエンジンがかかり操作できるかも審査対象となる。数十年前のエンジン音が生で聴けるのもこのイベントの醍醐味だろう。
審査は展示の状態から行われた後、一台ずつアナウンスされメインステージに呼ばれる。そこでクルマの詳細がMCによって語られると、オーナーのインタビューがはじまる。誇らしげなトークはじつに饒舌だ。
感心したのはそのときのオーディエンスの反応。どのクルマがどれだけレアなのか皆知っていて、モノによっては拍手が鳴り止まない。そんなところもヨーロッパのカーカルチャーの深さを感じさせられる。