この新型ユニットを積んだS5クーペを実際に走らせると、省燃費はともかくパワフルさは感じる。出だしからトルクの立ち上がりが早く、パワーはリニアに増幅していく。エンジン開発者が“エモーショナル”という言葉をしきりに繰り返していたが、その意味がわかったような気がした。
その背景にはヘッドまわりに仕掛けがあるらしい。どうやら高膨張比のミラーサイクルの進化版を採用したようだ。吸排気バルブの開閉を早くしたり遅くしたりし、効率のいい一連の行程をやり遂げる。開発者によれば、3200回転までで一般的な走行の95%はまかなえるという。
走行関係のテクノロジーではアウディドライブセレクトも見逃せない。これは、エンジン/ギアボックスのレスポンスやサスペンションの設定、ステアリングのフィール、エンジンサウンドの聞こえ方、アダプティブクルーズコントロールの反応などを好みに合わせてセッティングできるものだ。面倒であればオートで十分だが、ダイナミックにしてスポーティなドライビングを楽しむことができる。
当然これも試してみたが、その反応は思いのほかわかりやすくフィールの違いを得た。エンジンサウンドも変えられるのはなかなかニクい演出である。
といった感じの新型A5/S5クーペはドライバーズシートもクーペライクであることを記しておこう。タイトな印象をもたらすスペースもそうだし、太いセンターコンソールやD字のステアリングなどスポーティな雰囲気が備わる。クーペはこうでなくちゃ!ってお手本だ。まんまドライバーズカーである。
最近はSUVラインナップを充実しているアウディであるが、こういったニッチなクーペモデルには開発者のやりたいことが色濃く出ている分“らしさ”を強く感じる。SUVブームの中あえてのクーペ選びなんて、かなり大人の選択なんじゃなかろうか。新型A5/S5クーペはその期待を満足させてくれる一台である。