アルピナというブランドは知られているようであまり知られていない気がする。この仕事をしているので90年代から都度新型車のステアリングを握ってきたが、モータージャーナリストとてすべてのラインナップに精通する者は少ないだろう。なんたって年間生産台数は1500台。そのほとんどが今も手組みで行われている希少車である。
試乗したのはBMW X4をベースしたXD4。リムジン(一般的にいうところのセダン)のイメージが強いが、昨今はご多分に漏れずSUVも手掛けている。2世代目のX3を経験値としての新型だ。
しかも今回は名前からもわかるように、ディーゼルユニットを搭載する。3リッター直6ディーゼルはコモンレール式で、アルピナ独自に4つのタービンを用いて過給する機構を持つ。低圧ステージに2基、高圧ステージに2基のタービンを配置する。なので、想像してもらうとわかるが、全回転域でターボが効率よく働く。低回転からのスタートはもちろん、高回転まで途切れることなくシームレスにパワーを増幅させる。この辺のピーキーさがないところはさすがアルピナと感じた。
というのも、アルピナの特性はまさにそこだと思っている。エンジンはどこまでも滑らかに気持ちよく吹け上がり、乗り心地はゴツゴツしたところはなく常にフラットライドを保つ。エンジンからサスペンションのセッティングまでレーシーに仕上げた“M”との違いはそこ。過去に乗ったアルピナモデルのすべてがそうであったように、このクルマもまた上質で気持ちの良い走りを提供してくれる。このことに気づいたのは、個人的に“M”を所有したことと関係する。同じBMW社をベースにしてもそのベクトルは明らかに異なるのだ。
それじゃアルピナは快適なだけのクルマなのかといえばそうではない。じつはかなりスポーティな走りも得意とする。アクセルペダルと同調してリニアに加速するのもそうだし、軽快なハンドリングは一級品である。