著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイがアップル株に投資したことが話題となっている。アップルは主力製品であるiPhoneの販売が伸び悩んでいることに加え、バフェット氏はこれまで、基本的にIT銘柄を避けてきたからである。バフェット氏の決断の背後には、アップルをめぐる大きな動きがありそうだ。
よく分からないものには投資しないはずだった
米証券取引委員会(SEC)への届け出によると、バフェット氏は2016年の1~3月期の間に、アップルの発行済み株式数の0.2%にあたる981万株(金額ベースでは約1100億円)を取得した。この事実が明らかになると、株式市場ではアップルへの買いが殺到し、前日比で3%も同社株は上昇した。
市場が驚いた理由は主に二つある。ひとつはこれまでのバフェット氏の投資スタンス。もうひとつはアップルの業績である。
バフェット氏はこれまで「よく分からないものには投資しない」としてIT銘柄への投資を避けてきた。唯一の例外はIBMで、同社にだけは積極的な投資を行っている。
IBMはれっきとしたIT銘柄だが、社歴100年を超える超名門で、創業時から顧客企業の情報処理の請負を行ってきた伝統ある企業である。情報処理の手法が、機械式の計算機からコンピュータにシフトしたことによってIBMはたまたまコンピュータ・メーカーになったが、同社の本質は、企業の情報処理のアウトソーシングにある。そう考えれば、バフェット氏が投資対象に選択していたことは不思議ではない。
一方、アップルはまさに新興企業の代表であり、今後、同社がどう事業を展開するのか、誰にも予測することはできない。実際、アップルはパソコン・メーカーとして急成長したものの、一時は倒産の危機に瀕しており、iPheonによって世界トップの企業にのし上がるなど、誰も想像していなかった。普通に考えればアップルはバフェット氏の投資対象にはならない。
これに加えて、同社の業績がこのところ思わしくない。同社は、これまで破竹の快進撃を続けてきたが、2016年1~3月期の決算は、売上高が前年同期比12.8%減の505億5700万ドル(約5兆6300億円)、純利益は22.5%減の105億1600万ドル(約1兆1700億円)と減収減益だった。
主力のiPhoneが発売開始以来初めてとなる販売台数の減少という事態に直面しており、これがそのまま業績に反映された。米国の売上高は10%減、欧州は5%減、中国は26%減、アジアは25%減と数字だけを見ると状況はかなり厳しい。
今回の業績低迷を受けて、有力なヘッジファンドの中には、アップル株を投資対象から外すところも出てきている。そのような中、バフェット氏が投資を実行したことから、大きな話題となったのである。
バフェット氏は高齢であり、近い将来、投資の判断は後継者に引き継がれる可能性が高い。すでに、投資判断の一部は、バフェット氏の部下に委ねられており、今回のアップル株への投資も、彼等の決断である可能性も高い。またアップルは25兆円という途方もない金額のキャッシュ(もしくはキャッシュ相当の金融商品)を保有しており、これを株主にどう還元するのかに注目が集まっている。
仮に今後、業績が芳しくない状況が続いた場合、同社が積極的な自社株買いや増配に動く可能性もあり、これらを総合して投資判断を下した可能性もあるだろう。