ポイ探の菊地崇仁氏が、エンリッチ読者のライフスタイルにマッチするクレジットカード、あるいはポイントサービスの付加価値を見出す本連載。7月最後は、バスや電車におけるキャッシュレス決済の動向について取り上げる。(1/3から読む)−−−
地方路線バスが交通系ICカードを廃止し、タッチ決済を導入
Suicaをはじめとする交通系ICカードは全国で相互利用でき、各地の電車・バスの乗車賃の支払いに使えるのはご存じの通り。こうした動きに逆行する決定を下したのが、九州産交バス、産交バス、熊本電気鉄道、熊本と市バスの県内交通事業者5社です。
気になる内容は、2024年中旬以降、Suicaなどの交通系ICカードのサービスを停止し、2025年4月以降はタッチ決済対応のクレジットカードへ対応を切り替えるほか、クレジットカードをスマートフォンに登録した「モバイルクレジット」、肥後銀行による「くまもん!Pay」での決済にするというもの。ただし、「くまもんのICカード」はそのまま利用できるといいます。
背景にあるのは、同エリアの路線バスにおける交通系ICカードの利用率の低さです。2023年度で全体の24%と高いといえず、対して「くまもんのICカード」が51%、現金その他が24%となっています。今後は小児・高齢者・障がい者割引や定期券利用などに対応する「くまもんのICカード」に資源を集中させるとともに、台湾半導体大手TMSCの進出に伴う外国人労働者やインバウンド増加を考慮したキャッシュレス決済の多様化、スマホ決済の利用増などを考慮した格好です。コスト面でも、既存機器の更新には12億円かかるとされますが、クレジットカードであればその半分の約6.7億円で導入できるのも決め手になったと考えられます。
利用者が多く、決済スピードの速さが重視される都市部の公共交通機関では交通系ICカードの優位性が際立ちますが、地方かつバス運賃の支払いだと、それほど重要ではありません。人件費や燃料代が高騰するなか、利用者が少なく更新コストがかかる交通系ICカードを除外するというのは、経営判断として間違っているとはいえません。他の地方路線も同様の施策を選ぶ可能性があるでしょう。
一方、近畿圏を中心に岡山県、静岡県を含む61の鉄道・バス事業者で構成する「スルッとKANSAI協議会」は、6月17日よりQRコードを活用したデジタル乗車券「スルッとQRtto(クルット)」のサービスを始めました。これは、国内外の利用者自身のスマートフォンでQRコード乗車券を購入でき、そのままチケットレスで加盟事業者の交通機関を利用できるというもの。開始当初はOsaka Metro、大阪シティバス、近鉄、京阪、南海、阪急、阪神の鉄道・バス事業者、提携する観光施設にも入場できるようになります。チケットは専用の販売サイトにアクセスし、クレジットカードなどで購入します。
タッチ決済やQRコードによる乗車サービスは他にも見られ、つくばエクスプレスは2025年中に、一部の駅でクレジットカードやデビットカードなどのタッチ決済やQR乗車券による乗車サービスの実証実験を開始するそうです。地方鉄道でもタッチ決済による乗車サービスに取り組むケースは多く、今後はインバウンドが訪れる観光地などを中心に、電車・バスで採用されていくと思います。
なお、国土交通省は全国の路線バスに対して、料金の支払いをICカードなどのキャッシュレス決済に限定して運行することを認める方針を明らかにしています。運賃箱の管理やメンテナンスには多額の費用が掛かり、新紙幣への対応も重荷になるでしょう。運航経費や運転手の負担を軽減するとされます。今秋以降に複数の路線バスで実証実験を行い、課題を検証したうえで実用化を進める方針です。都市部では交通系ICカードの利用率は高く、事業者の8割以上が赤字とされる路線バスの課題を解消する一手になるかもしれません。いずれにしても、公共交通機関におけるキャッシュレス決済は、ますます加速していくでしょう。