自社の成長や発展のために、M&Aを選ぶ中小・中堅企業の経営者が増える昨今。これは、買い手・売り手にとって、またとないチャンスだ。では、両者が成功を収めるためのポイントとは? ここでは、国内最大のM&A支援実績を持つ株式会社日本M&Aセンターの業界再編支援室長で、今秋に『「業界再編時代」のM&A戦略』(幻冬舎)を上梓した、渡部恒郎氏に話を伺った。(前編から読む)
自社の価値を高めるM&A戦略とは?
――日本M&Aセンターの場合、どういったプロセスでM&Aを進めていくのでしょうか。
渡部 基本的な実務手順は、以下の6ステップです。
① 受託
② ②案件化(企業評価・概要書の作成)
③ マッチング(登録先企業から適切な企業を選定)
④ 買い手提案
⑤ 交渉(トップ面談・法的拘束力のない基本合意契約)
⑥ クロージング(最終契約の締結)
最初の受託ですが、ここでは当社が開催するM&Aセミナーの参加者や、電話やウェブサイト経由の問い合わせ、地銀や大手証券会社など金融機関、税理士や公認会計士などの会計事務所といった当社が持つ全国ネットワークからの紹介という流れで、売り手が現れます。そこで個別面談を行い、経営方針や困っていることについてヒアリングを実施しつつ、業界の外部環境やM&Aの基礎知識などもお伝えし、M&Aを本格的に進めることになったら提携仲介契約を結びます。
もっとも大事なのは、案件化です。ここでは売り手企業の情報を把握して、買い手企業に提案するために「資料収集」「企業評価」「企業概要書の作成」「業界分析・業界調査」といった作業を行います。こういった情報がないことには、買い手は判断がくだせません。よく「知人の会社を買いたい」といった声を聞くこともありますが、話がまとまらないケースがほとんど。それは、会社の値段も中身もよくわかっていないからです。仮に中身は理解していても、値段が決まっていないものを買うことはできません。それは、日常のショッピングでも同じことでしょう。それをなくすために、良いところも悪いところも含めて我々がどんな企業なのか書面で落とし込み、適正な値付けを行ったうえで、マッチング、買い手提案を進めていきます。
両者に関心があるようなら、経営者同士でトップ面談を行い、さらに話を進めるなら基本合意契約を結び、具体的な買収金額とスケジュールをハッキリさせます。さらに買い手の弁護士などが売り手を精査し、問題がなければ最終契約に至るといった流れです。
平均的に、初回面談から案件化に1ヶ月、マッチング・買い手提案は1ヶ月を切ることもあれば半年かかることもありますが、基本合意契約から最終契約までは1ヶ月半くらいといったスパンです。トータルで平均1年ほどかかると考えています。
1年以上かかる場合は、売り手企業の組織が複雑すぎるなど、何らかウィークポイントがあるということ。例えば関連会社が多過ぎるならまとめるよう促すなど、社内の弁護士や会計士と協力しながらサポートしていきます。
買い手を探すプロセスも、とても重要です。企業の9割は会社を買いたいと考えていて、我々もそういった会社をつねに回っています。何万社のデータベースを持ち、売り手が出てきたらマッチングさせていくわけです。ひとつの売り手に対して多ければ100社に打診し反応を探っていきますが、大きな投資をする決断ができるのは2~3社しか残らないというのが実情です。打診する会社も同業だけでなく、メーカーや商社、新規事業に興味を示している会社など、どの企業がヒットするのか綿密に探していきます。この辺は、日頃からの情報収集が力を発揮する場面です。