このところ、東京の不動産市場が活況を呈している。東京駅前の高層ビル「パシフィックセンチュリープレイス丸の内」が、シンガポール政府投資公社(GIC)に1700億円で売却された。8月には、バブル経済の象徴ともいわれた目黒雅叙園を森トラストが買収するとの報道もあった。
このビルが動き始めたということは・・・
今回のシンガポール資本による大型ビルの買収は、非常に象徴的な取引といえる。なぜなら、このビルは、日本の不動産市場の映し鏡になっているからである。
パシフィックセンチュリープレイス丸の内は、1997年3月に国鉄精算事業団が実施した入札で、香港のパシフィックセンチュリー・グループ(長江財閥)が869億円で落札し、建設したものである。
同グループでこの落札を指揮したのは、財閥総帥・李嘉誠氏の次男で、当時はまだ30歳そこそこだったリチャード・リー氏である。彼は、ネット起業家として当時は大成功を収めており、そこで得た巨額の資金を、当時、金融危機寸前で暴落していた日本の不動産につぎ込んだのである。
当時、日本の不動産市場は底なし沼の状態で、リー氏に対しては、採算を無視した無謀な計画だと批判が集まった。だが、リー氏が土地を取得しビルを建設した頃を境に、日本の不動産価格は急上昇を始め、2006年には、このビルを国内の投資ファンドであるダヴィンチ・アドバイザーズ(当時)に約2000億円で売却することに成功した。リー氏のもとには、巨額の買収益が転がり込んでくることになった。
一方、ダヴィンチはこの物件を取得した頃から経営が傾き始め、2009年にはこのビルをセキュアード・キャピタル・ジャパンに1400億円で売却する結果となった。
セキュアード・キャピタル・ジャパンは、今回、このビルをシンガポールの政府系ファンドに1700億円で売却したので、およそ300億円の利益を得ている計算になる。同社は現在、香港系企業となっているので、香港勢は二度にわたって売り抜けに成功したことになる。
今後、シンガポールの政府系ファンドがこの物件からどの程度収益を上げられるかにもよるが、今のところ、この物件で損をしているのは、日本人だけという無残な結果となっている。