金の価格形成メカニズムが代わる可能性も
もちろんアップルウオッチに使われる金は、今年採掘されたばかりのものだけでなく、すでに存在している金も使われる。しかも金は1日あたり3000トン程度の取引がある。同社もこのあたりはよく承知しているはずであり、アップルウオッチが販売開始になったからといって、すぐに供給不足に陥るわけではないだろう。
だが長期的に見て、アップルウオッチの存在が、金の価格形成に影響を与える可能性はある。
工業製品には大量の金が使用されているため、産出される金の2割程度が工業用として使われる。残りは宝飾品用のニーズということになる。工業利用される金の量や宝飾品としての金の量は、毎年ほぼ決まっているため、本来であれば、金の価格は安定しているはずである。
だが現実の金価格は市場でかなり上下する。その理由は、貨幣に代わる資産の保全先としてのニーズが金には存在しているからである。
したがって金の価格は、基軸通貨ドルの価値の裏返しということになる。実際、金価格は、ドル危機がピークに達した1970年代や、リーマンショック後の金融危機の際に高騰し、経済が順調で通貨不安がない時期には下落する傾向がある。
だが、アップルウオッチの上位モデルが当初の予想通りの売れ行きを示した場合、これから金の大口需要としてアップルウオッチが加わることになる。アップルウオッチが順調に売上げを拡大すれば、金の需要は逼迫するだろうし、逆にある時点を境にして売上げ見込みが大きく下がるようなことになると、逆に金価格の暴落を招くことになるかもしれない。
アップルただ1社の製品戦略で、金という人類共通のコモディティの価格形成メカニズムが変わってしまうというのは少々驚きである。アップル株はダウ銘柄への採用が決まり、さらに同社株に注目する投資家が増えそうである。だが、投資家はアップルの株価だけでなく、アップルウオッチの売れ行きと金価格にも注意を払っておく必要がありそ